断頭台の友よ(86)

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85話

 馬を走らせて、バロー家に辿り着く。主人のゴーチエは、不機嫌さを隠さない。クレマンを家にあげることを拒否しようとしたが、役人としての権力を発揮した。捜査に協力をしなければ、公務の執行を妨害したとして逮捕すると強く言い放ったため、彼は渋々、クレマンを通した。カペラ夫人は、気分が悪いと伏せっていたが、いなくても構わない。

 歓迎されていないのはわかっているので、クレマンは「ひとつだけ、教えてください」と早々に切り出した。駆け引きなどない。直球を投げる。

「イヴォンヌ嬢の子供を、東の孤児院に預けましたね?」

 預けた、というのは言い過ぎか。「いえ、捨てたんですよね」と、言い直した。

 ゴーチエは激昂して立ち上がり、殴りかかろうとした。しかし、クレマンが焦ることも逃げることもせず、じっと見つめてくるのに気圧されると、彼は頭を抱え、しおしおと再び椅子に身体を預けた。その様子が雄弁に答えを語っていたが、クレマンは彼の口からきちんとした証言を聞くべく、黙って立っていた。

「……そうだ」

 堕ろすも罪、産むも罪。だとすれば、母体に負担のかからない方を選ぶ。

 イヴォンヌは出産した。カペラがもう少し若ければ、彼女の子供として公表することもできたが、残念ながら、イヴォンヌは年を重ねてからようやく生まれた、一人娘である。出産の痛みと疲労で意識を飛ばしている間に、生まれた子供は孤児院の前に捨てられた。

「だが、それがどうだというんだ? 貴様ら無能は、イヴォンヌを殺した犯人を捕まえることができないじゃないか! 何ヶ月経ったと思っている!?」

 図星であったため、反論を控えた。クレマンが沈黙したのをいいことに、ゴーチエは口角泡を飛ばして怒鳴り散らす。聞くに堪えない罵倒語もあった。クレマンはじっと黙して聞き流し、すっかり言葉を出し尽くしたバロー家の主人に、静かにもの申した。

「東の孤児院の大勢の乳児殺しの犯人も、首斬鬼であることを確かめたかっただけです。それでは、失礼いたします」

 音に聞く孤児院での事件も、西の院長の犯罪ばかりが取り沙汰され、東の孤児院の凄惨な現場については、新聞で報道されることは少なかった。そういう事件があったらしい、という噂は聞いても、「なんと恐ろしい」以外の感情は浮かばなかっただろう。

 最初から、孫に対する慈しみの気持ちはなかっただろうに、ゴーチエは娘のみならず、孫までもが首斬鬼の犠牲になったことを知ると、頭を抱えた。さすがに思うところがあったのだろう。急に老け込んだように背を曲げた男に一礼して、クレマンは静かに退出した。

87話

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