次に歌うなら君へのラブソングを(19)

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18話

 勝手知ったる自分の家とばかりに、キッチンでコーヒーを淹れた。お互いにこだわりがないので、インスタントを適当に。新調したばかりのおそろいのマグカップを手に、司が部屋に戻ると、花房は愛おしそうにギターを抱きしめ、爪弾いていた。

 隣に腰を下ろし、カップを差し出すと、「ありがとう」とは言うものの、楽器に夢中だ。目さえ合わない。溜息混じりに、テーブルに置いた。

 花房は給料日後、すぐにギターを買い直した。すべてを売り払ってしまっていたので、新たな相棒を手に入れた喜びでいっぱいだ。一度弾けるようになれば忘れないというが、それでも指の動きは毎日の鍛錬が必要で、少し操りづらそうにしている。

 コードを押さえる指がなかなかいうことをきかず、舌打ちをしている花房だが、苛立っているように見えて、その実、喜んでいる。

「……」

 面白くない。

 いや、一目惚れしたのは彼の歌っている姿だったのだから、演奏を独り占めできるのは、うっとりするほど嬉しいことではある。

 でも今は、恋人として部屋に遊びに来たんだから、構ってほしい。

 司は自分のカップをテーブルに置いて、花房の膝に手を置いた。こちょこちょとくすぐっていたずらをしてみるけれど、彼は「んー」と、気のない返事をするばかり。

 何度かこちらを振り向かせようと試みるけれど、ことごとく失敗だ。

 司は諦めて、パタン、と彼の膝を枕にして横たわる。すると、ばちっと目が合うので、ひょっとして、今まで無視していたのはわざとだったのか、と気づく。

「ギター馬鹿。また駅前で歌えば? そしたらモテるんじゃない?」

 憎まれ口を叩くと、にやにやした花房の唇が下りてくる。

「次に歌うのは、あんたにだけって決めてるから」

 愛する人へのオリジナルのラブソング。

 ついばむ唇が、たったひとりの観客に向けて愛の歌を紡ぐ日は、そう遠くない。

                                        (了)

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