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<10話
背後から声をかけられ、ギギギ、と音がしそうな動きで振り向いた彼は、「お、おおお」と呻いた。おはよう、すら言えないのは、登校した彼女がどこからどこまで自分の話を聞いてしまったのか、不安になったからだろう。
呉井さんは挙動不審なクラスメイトを一切気にかけることがない。それどころか、彼の存在すら無視している。穏やかな微笑みを浮かべ、「おはようございます、明日川くん」と俺に直接、改めて挨拶をしてくれる。
「おはよう、呉井さん」
呉井さんが教室中央付近にある自分の席に向かう。それをなんとなく目で追うと、彼女の前に座る女子となぜか目が合ってしまった。無反応なのも感じが悪いと思い、軽く会釈で「おはよう」の意を表す。すると、女子……柏木なつめは、ばっと視線を外した。
あまりにも勢いがあったので、俺は思わず、自分の格好や仕草を振り返ってしまった。
頭がピンク色のままだから、怖いヤンキーだと思われたか?
でも彼女だって、どっちかといえばギャルだ。髪の毛は俺と違い、怒られない程度のカラーだが、よく見ると、下ろした髪の内側は、ミルクティー色でやや明るい。インナーカラーとかいうやつだ。美容師がそんなことを言っていた。
化粧だってしている。クラスでは可愛い方だと思う。呉井さんと違うのは、アイドルグループの一人にいそうな雰囲気という点だ。よく言えば、万人受けする感じ。悪く言えば、無難で没個性。
いや、俺には言われたくないだろう。俺なんて、イケメンでも美少年でもない。ピンクの髪色で個性を演出しているだけの凡人だからな。穏やかな顔だと言われることが多いので、ヤンキーには到底見えないだろう。
じゃあ、オタクっぽさが滲み出ていたとかだろうか。こっちは可能性がある。何せ、物心ついてからこちとらずっとオタクなのだ。ラノベや漫画をこれ見よがしに読んでいなかったとしても、オタク独特の何かが漏れていたのかもしれない。
再び顔を上げたとき、柏木はすでに俺の方を見ておらず、ほっとした。
>12話
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