クレイジー・マッドは転生しない(20)

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クレイジー・マッドは転生しない

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19話

「女に対して怒鳴りつければ、言うことを聞くとお思いではありませんか? 私は、そんなに弱くはありません」

 いや、どう見てもか弱い女の子だから! そんな風に煽るのはやめて! こいつら絶対単純だから、簡単に乗るよ!?

 男たちは思ったとおりの反応だ。凄みを増して睨みをきかせるだけじゃ済まず、強引に呉井さんの手首を掴もうとした。

 その段階になって、ようやく俺は動けるようになった。動かなければならなかった。呆然としている場合じゃない。不良に立ち向かった経験なんて一切ないけれど、呉井さんと柏木が傷つけられるようなことは、あってはならない。

「呉井さ……」

 俺が駆けつけ、声をかける前に、助けに入った人間がいた。

 ふわっと広がるフリルとレースで縁どられたスカートに、白いニーソックスの絶対領域が眩しい。厚底靴との合わせ技の高身長で、かくれんぼ中にぶつかった、ゴスロリファッションの女性だとすぐに気がついた。

 いくら俺と背が変わらないといっても、女性だ。今度は彼女が危ない。やっぱり俺が助けに入らなければ……と接近したのだが。

「あらぁやだ。いい男じゃないのぉ」

 野太い声に、動きを止めた。俺だけじゃなく、男たちも。背が高いのも、ちょっと肩幅が広いかな? と思ったのもオカマ……えっと、今はなんて言ったらいいんだ? とりあえず、女装した男だったからだ。

「こんな小娘たちじゃなくって、アタシとお出かけしない?」

 うふん、としなを作って誘惑のウィンクと投げキッスをしたゴスロリオネエさんに、ぞぞぞ、と怖気が走った男たちは、逃走した。

 ……俺、何もしてない。

 男たちが去って、不穏な空気が霧散した。明らかにほっとした様子で、他の客たちも流れを取り戻す。

 俺はようやく二人に駆け寄ることができた。

「呉井さん。柏木」

 大丈夫だった、と気軽に口にすることはできなかった。俺はヤンキーたちの剣幕にビビって、二人を助けに来ることができなかった。

「明日川くん」

「明日川」

 二人の声には、気遣うような響きが含まれている。助けるべき存在に、気遣われている。今俺は、どんな情けない顔をしているんだろう。思わず下を見て、唇を噛んでしまう。

「適材適所、ということですわ。明日川くん」

 呉井さんに声をかけられても、顔を上げられない。彼女は頬を両手で包み、無理矢理顔を上げさせた。初めて間近で凝視した呉井さんの目は、どこか青みがかった色をしている。

 彼女は顔を上げた俺に満足そうに微笑み、それから俺の腕を掴んだ。意外と力が強い。滑らかな肌の感触に、汗ばんだ自分の腕が恥ずかしい。

「明日川くんのこの腕じゃ、あの人たちには勝てなかったでしょう。ねぇ、恵美?」

21話

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