断頭台の友よ(17)

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16話

「クレマン。どうか俺にも、捜査の手伝いをさせてほしい」

「オズヴァルト……」

 婚約者の首を悲しげに見守っていたオズヴァルトが、頭を下げた。顔を上げてくれと声をかけるが、彼は頑として譲らなかった。クレマンが了承の返事をするまで、オズヴァルトは懇願の姿勢を崩さないだろう。

 変死体の発見や窃盗・強盗の被害に遭った場合、まずは王都の防衛を担う騎士団の詰め所に行くのが普通だ。東西南北に拠点が置かれており、夜遅くでも夜警の当番が必ずいる。そこで保護してもらったり、簡単な事情を説明したところで初めて、捜査官が派遣される。

 オズヴァルトが捜査官であるクレマンの元に直接、しかも役所を通さずに事件の一報を知らせた理由は、自分自身の手で犯人を捕まえたいという、強い意志に基づくものだ。普通の手段では、事件はすべて高等法院の捜査官の手に委ねられる。クレマンは友人だから、捜査状況を漏らしたり、何らかの方法で捜査に食い込むことすらできるかもしれないと、期待している。

 もちろん、役人としては一般人を巻き込むのは失格である。まして今回の相手は、あの首斬り鬼だ。老若男女問わず、すでに何十人もの犠牲者を出している。不審な人物の目撃者はあれど、どれも印象がまちまちで、実態がつかめないような人間だ。友人を危険な目に遭わせたくはない。

「クレマン、頼む……頼む!」

 オズヴァルトが涙声で、腕にしがみついてくる。続いて肩に食い込んだ指は、真っ白になって震えている。

 その必死な様子を見て、クレマンは覚悟を決めた。

「オズ。君は、絵は得意かい?」

「クレマン?」

 突然の問いかけに、オズヴァルトは虚を突かれて指を離した。目を丸くするのは、いつもは自分の方だから、クレマンはしてやったり、と場違いながらおかしな気分になる。皮肉な笑みを唇に浮かべてみるが、オズヴァルトがいつもするようにはいかない。あんな風に格好つかない。

「ご遺体の現在の状況を、記録しなければならないんだ。僕はあいにく絵が苦手で、いつも他の人に頼んでいるんだが……今は君しかいないからね。どうだい、頼めるかい?」

 クレマンの言わんとすることを途中で察して、オズヴァルトは「紙と鉛筆を借りてくる!」と、張り切って部屋の外へと走り出した。頼もしい彼の背中を見送り、クレマンは本当にこれでいいのか自問自答する。

 嫌な予感がする。自分のみならず、オズヴァルトの命さえ、危険にさらされるかもしれない予感だ。

 だが、憔悴して丸まった背中ではなく、凛と張った背中に戻ったオズヴァルトを見ていると、クレマンはこれでよかったのだと自分を無理矢理納得させたのであった。

18話

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