断頭台の友よ(16)

スポンサーリンク
十字架 ライト文芸

<<はじめから読む!

15話

「バロー嬢は……生きたまま、首を斬り落とされた可能性が、非常に高い」

 オズヴァルトが隣で息をのむのを感じた。首斬り殺人という衝撃的な事件であるが、当然、他の手段で殺害をしてから首だけ斬ったのだと思うではないか。クレマンだって、今初めて、実際の死体を目にするまではそう信じていた。だが、本当に首を斬ることで殺すとなると、それは。

「本当に、斬首じゃないか……」

 呆然としたオズヴァルトの呟きに、クレマンは項垂れる。高等法院で噂を流していた連中は、捜査にあたり、この事実を知っていたからこそ、処刑人が犯人かもしれないと囁き合っていたのだ。今わかった。

 クレマンは再び、イヴォンヌの首を持ち上げた。切断されたギリギリの際に、絞めた痕でも残っていないかと目を凝らしたが、そんなものはなかった。

 生きながらにして、首の皮を肉を、骨をギコギコと斬る。即死させることを心がける処刑人とは、百八十度違う価値観の犯人に、憤りを感じながら、イヴォンヌを憐れむ。

 どれほど痛かっただろう。どれほど苦しかっただろう。叫び声は、ああ、枕でも押し込められて封じられていたか。抵抗したときに、犯人の手を引っ掻いてでもいないものか。彼女の爪は、きれいなままだ。

「……いや、おかしくないか?」

 捜査に没頭していたクレマンが漏らした一言に、オズヴァルトは「何がだ?」と、すぐに食らいついてくる。

「きれいすぎるんだ……」

 部屋の凄惨な状況に反して、イヴォンヌの死に顔が。あまりにも安らかで、眠っているようにしか見えない。衣服の乱れも、クレマンが脱がせて確認するまではなかったし、シーツの皺もない。

 極めつけに、顔に触れるとおしろいが指についたのだ。おしろいだって? 眠るときに化粧をする婦人もいるかもしれないが、昨日、オズヴァルトと彼女は同衾していなかったのだ。誰に見せるために、化粧をしたというのだ?

「犯人が、死に化粧をしたっていう可能性は?」

「ああ、まぁ、その可能性もあるにはあるが……他の被害者の情報が欲しいな」

 そのためには高等法院に出向き、担当している捜査官に許可を得なければならないことを思い出し、クレマンはうんざりする。親しくしている同僚ならばまだしも、この一連の事件の中心は、反りの合わない上司である。

 捜査の花形は殺人事件であり、連続するものであればなおよい。解決したときの名誉が大きいから。

 心の中でそう思っているならばまだしも、口に出してしまううかつな人間を、クレマンは信用することができない。向こうも向こうで、事件など起こらない方がいいとする一派――とはいえ、その発心の理由はそれぞれ異なっているだろう。王都の人々の安全を守ることが第一であるとクレマンも表向きは言うが、本当は、できることなら処刑人として拷問や死刑を執行する機会が減ることを祈っているのだから――とは、相いれない。

17話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました