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<35話
テストまであと十日。今日も雨がしとしとと降り続いている。
呉井さんの調子は戻らない。それでも彼女のえらいところは、授業には集中しているところだ。おそらく、彼女はテスト勉強も家でしているだろう。
俺?
俺もまぁ、ぼちぼち。英語と日本史は始めた。理数系は、そのうち。うん。
期末テストなので、保健体育や美術など、実技教科のペーパーテストもある。音楽の授業で言い渡されたテスト範囲を見て、たいした量じゃないじゃん、と思いながら、教室に戻った。
教材を机の中に閉まって、昼食の準備をする。柏木はとっくに弁当箱を持って、友達のところへ向かった。俺は基本的にぼっち飯だが、呉井さんもぼっちなので、なんとなく二人で食べている気分は出る。
が、呉井さんはなかなか戻ってこなかった。帰り際、音楽教師に呼び止められたという素振りもなかったはず。トイレに行った? それにしては時間がかかっている。早食いではない俺の弁当が、半分近く減っても、呉井さんは戻ってこない。
母親の作った弁当は、男子高校生の舌を信用していない。なので質より量である。作ってくれるだけありがたいと思え、とばかりに毎朝、あくび交じりに渡される。弁当はいつもと同じ味なのに、なんだか味気ない。
俺は一度、弁当箱の蓋を閉めた。呉井さんを探しに行こう。
席を立って廊下に出る。音楽室は一つ上の階だ。階段は二か所あるが、いつも使う方に向かえばいいだろう。
階段に差し掛かったところで、呉井さんが降りてきたところに出くわす。
「呉井さん。遅かったみたいだけど、何かあった?」
軽い気持ちで、俺はそう尋ねた。すると彼女は、なんだか困ったような表情を浮かべた。違うと信じたいけれど、何かを疑っている。そんな顔で、「明日川くん……」と途方に暮れた声を出す。
首を傾げながらも俺は、呉井さんの話をきちんと聞こうと決めていた。
>37話
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