クレイジー・マッドは転生しない(61)

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クレイジー・マッドは転生しない

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60話

「ベッド、ふかふかだったな……」

「ああ……」

 ホテルのベッドみたいだった。思いきりダイブしたい気持ちをぐっと堪えていたら、山本が先に大の字になって、寝心地を検証していた。なので俺も、負けじと跳び込んだ。深呼吸して堪能したのち、居間に集合した。

「遅い! なんで女子より遅いの!」

 ぐあっと噛みついてきたのは柏木。早く座りなさいよ! と促され、開いている場所に座る。大きなソファセットがあって、仙川以外の人間が全員座っても、まだ余裕がある。思った以上に身体が深く沈み込んで、夏にこれなら、冬はもっと人をダメにする空間なんだろうと感じた。

「なぜ柏木が仕切る? この同好会は、呉井が部長だと聞いていたんだけど……」

 山本は俺にこそっと囁いた。柏木の耳には入らないように、最小限のボリュームに絞っている。がり勉優等生とギャルは、想像通りに相性がよろしくない。まぁ、山本が一方的にビビってるだけなんだけど。柏木は山本のことなんて、なんとも思っていないし。ついでに俺のことも。

 柏木が「これ回してー」と差し出してきたのは、手作りの「合宿のしおり」だった。表紙に描いてあるのは……なんだ、これ? 虫か?

「失礼ね! テニスをする桃様よ!」

 人間、だと……?

 桃様がわからない山本に、スマートフォンで画像を見せると、しおりのイラストと見比べて、目をパチパチさせている。そうだよな。百歩譲って、鬼かなんか、人型のバケモンだよな。

 柏木には画才はないことが判明したところで、パラっとめくってみる。

「タイムスケジュール……」

 対外試合なんてあるわけもないし、研究発表の機会もない。合宿の名を借りたただの小旅行に、どうしてこんなに気合いを入れたスケジュールが……って、おい。

「なんだよこのコスプレタイムってのは」

 これから夕食の時間まで、コスプレタイムになっていた。

 柏木はきらりと目を光らせると、部屋に持って行かなかったスーツケースを開き、お披露目した。

「じゃーん! みんなにしてほしい、コスプレ衣装を夏休み中に作ったんだ~!」

 これは呉井さんのね! と彼女の胸に押し付けたのは、誰がどう見ても、メイド服だった。

「お、お嬢様に使用人の服など……!」

 仙川や呉井さんの操縦方法を覚えた柏木は、「ちっちっちっ」と指を振った。

「転生先では、どんな身分になるかわかったもんじゃないでしょ? 貴族のご令嬢になればいいけど、誰かに仕えることになるかもしれない。そのときの練習だよ!」

「転生? 身分?」

 案の定、クラスでの呉井さんしか知らない山本が目を白黒させているので、「あとで教えてやるから」と肩を叩いた。

 呉井さんは、ぱぁ、と表情を輝かせる。

「そうですわよね! わたくしは、メイドらしい振る舞いを覚えておくべきですわ!」

 身体に当てている感じだと、ミニスカートではない。クラシカルなロング丈のシンプルなメイド服だ。ちぇ。あ、いや、呉井さんの脚が見たいとかそういう……見たいに決まってるだろ、そんなもん。言わないけど! 言ったら仙川に殺されるから、言わないけど!

 その仙川には、ドレスが宛がわれた。紫色でひらひらしていて、仙川の口元が引きつっている。

「わ、私もするのか……!?」

 当然だと胸を張る柏木は、どうやらかくれんぼをしていたときの仙川の女装(?)が、忘れられないらしい。ウィッグとメイク道具一式を手渡して、そのまま仙川の手を握って懇願する。

「ゴスロリもとてもよく似合ってたけれど、仙川先生にはシンプルでゴージャスなドレスが似合うと思う! あと単純に、主従逆転萌え!」

 本人たちに言うな、本人たちに! 

「まぁ……わたくしと恵美が、モエ、ですのね?」

 明らかに呉井さんがわかっていない発言をしている。新たな言葉と概念を入手する前にどうにかしなければ、と仙川は「早速これに着替えてまいりましょう!」と、彼女を引っ張って行った。

 これには瑞樹先輩も、苦笑いするしかない。

62話

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