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<98話
デートは柏木の意見も参考にして、地元の高校生の定番コースにした。県内に遊園地はあるが、車でないと交通の利便性が悪い。そのためうちの高校の人間は、だいたい電車に乗って、隣県にある大型ショッピングモールに向かうのだ。
そこは買い物や飲食だけではなく、ゲームセンターやボウリングができる施設があり、カラオケもある。早い話が、「次どこ行く?」となったときに近場ですべて解決できる、手っ取り早い場所なのである。
俺は勿論、呉井さんも初めて来た様子で、少し興奮していた。あまりにも広くて、全部見て回ろうとするのは自殺行為としか思えなかった。そこで俺は、事前にいくつかの店や施設をピックアップしていた。
「呉井さん、ゲーセンって行ったことある?」
案の定、首を横に振る。そもそも呉井さんって、テレビゲームとかやったことあるんだろうか。スマホのアプリゲームの類をやらないくらいだから、興味がなかったのかもしれない。
「じゃあ行ってみよう」
彼女は少しだけ、二の足を踏む。ゲームセンターといえば、ギャルっぽかったり不良っぽかったりする連中が行く場所。そういうひと昔前のイメージがあり、入るのに躊躇している。
「大丈夫だって」
確かに繁華街のチェーン店ではない店だと、そういうイメージは正しいかもしれないが、ここはショッピングモールだ。当然客層も、ファミリーが多い。
四階のゲーセンまで引っ張っていくと、明るいブースにやや音量を控えたBGM、何よりもゲームに興じている半分は小さな子供たちということもあって、呉井さんは明らかにほっとした表情を浮かべていた。
俺は呉井さんを誘導して、まずは人気のリズムゲームの前に連れていった。数台あるゲームの筐体は、ラッキーなことに一台空いている。俺は荷物を足元に置いて、百円を入れた。
「呉井さんは、半分からそっちね」
「え、ええ? え!?」
突然のことにあたふたする彼女は珍しい。ペースを崩すことには成功している。俺は彼女の焦りに気づかなかったフリで、涼しい顔をしてレベルと曲を選択する。何度もプレイしているとはいえ、俺もプロ並に上手いとはいえない。中くらいのレベルで、曲はゲームオリジナルではなく、CMにも使われていたロックバンドのヒットナンバー。このくらいなら、呉井さんも聞いたことあるだろう。去年の紅白で歌ってたし。
「始まるよ。集中して!」
「は、はいぃ……」
目を白黒させた呉井さんは、最初は戸惑っていたが、落ちてくる音符が下部のバーに合ったタイミングで、同じ色のボタンを押せばいいのだとルールを理解すると、持ち前の運動神経とリズム感を発揮し始めた。
軽快なリズムとともに、「ふっ」「ほっ」と無意識に声を上げ、初心者らしく身体も一緒に揺れている呉井さんは、教室では決して見られない。
「次はもうちょい難易度上げても大丈夫そうだな」
選んだのもやっぱり、ドラマの主題歌で有名な曲だ。
「えっ、ちょ、速い! 何、コレ!?」
先程とはレベルが違う。プロレベルに上手い人間だと、これを一人でパーフェクトに叩くのだが、俺は半分で限界。呉井さんのところまでカバーできない。
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