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<99話
「頑張って!」
「う、あ、えええ? いやあああ」
経験上、ゲームには人間の本性が表れると思っている。パズルゲームで連鎖をめちゃくちゃ組む奴と、三連鎖くらいを連打する奴は性格が異なる。穏やかで、常に誰かのために行動すると思われていた奴が、某すごろくゲームでめちゃくちゃいやらしい戦法を取ったりすることもあった。
常にお嬢様然としている呉井さんの本当の姿を見たい。彼女は担当のボタン五つを捨てて、両手で一つずつボタンを押す作戦に出ている。全部押そうとしても、初心者の呉井さんはついていけない。
「明日川くん! よろしくお願いしますね!」
「任された!」
俺がパーフェクトを取り続ければ、ギリギリでクリアできるかもしれない。素早い判断だ。そして俺のことを信じていなきゃ、取れない作戦でもある。
ゲームから見る呉井さんの本当の性格は、合理的だ。できることとできないことをきっちりと分け、可能な限り自分の手で行い、不可能な部分はできる人に丸投げをする。
また、夢見がちというわけでもないようだ。次に向かったのは、ゾンビを撃ち殺すゲーム。暴力的だのなんだのと言われるかと思ったが、彼女は最初はきゃあきゃあ言いながら、途中からは無言で本職のハンターのように、淡々と撃ち殺していた。
「怖いとかないの?」
「どうしてですか? 作り物じゃないですか」
呉井さんはきょとんとしている。射撃の才能があるのか、呉井さんの成績は俺よりもよかった。
「これ、とても楽しいですね!」
楽しんでいただけたようで何よりだ。俺は俺で、呉井さんの知らない一面を見ることができて、大変有意義であった。
ゲームセンターでは最後に、プリクラを撮ることにした。
男だけではプリクラブースに入れないことが多い。女の子とデートをするのも初めてだし、中学時代に男女グループで遊ぶこともほぼなかった。よって、他のゲームとは違い、プリクラは俺もほぼ初体験だった。
『変顔して~』
「変顔? 変顔って?」
「例えば、こんな……」
三、二、一……カウントダウンに合わせて俺は白目を剥く。
『ゼロ!』
そのまま撮影されてしまったが、果たして呉井さんはどんな変顔をしたのか。白目だからわかんないんだよな。その後は普通に写真を撮ったのだが、ラストは。
『ぎゅ~っとくっついて!』
などという、何かの罠のような指示だった。俺は乾いた笑いを上げて、「別に全部従わなくてもいいよな?」と言うが、呉井さんはぎゅっと俺の方に寄った。
「せっかくですから。ね?」
何がせっかくなのかはわからないけれど、俺も呉井さんの方に身を寄せた。俺がもっといい男なら、肩を抱き寄せたり手を繋いだりするんだろうけれど、そこまではできない。恋人でもなんでもない男がやれば、セクハラ以外の何物でもない。
「あとは外に出て、らくがきタイムだってさ」
「な、なにをかけばよいのでしょう……」
二枚目の変顔写真、呉井さんはフグのようなふくれっ面を披露していた。可愛い。
結局らくがきには時間が足りず、最後はスタンプを一つか二つ押すだけでいっぱいいっぱいだった。世の女子たちは、全部にらくがきをするのか。直感でやってるのかな。すごいな。
出てきたシールを半分こした。呉井さんは、「どこに貼ればいいのでしょうか?」と悩んでいる。俺はスマートフォンを取り出した。ケースから一度外して、スマホ本体にシールを一枚貼りつける。
「どこに貼ってもいいんだよ。自分の愛着の持てる物に貼ってほしいな」
彼女は少し悩んだ末に、鞄の中から手帳を取り出した。
そう、中身をボロボロにされて、激怒したあの手帳だ。日向瑠奈の写真が挟み込まれていた。同じ手帳に、彼女は俺とのプリクラを貼った。
変顔の奴をチョイスするのは、やめてほしかったな。いや、呉井さんは可愛いんだけれど。
>101話
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