平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(8)

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7話

よく本棚を見れば、雑然と突っ込んであるだけかと思った本の一部は、早見岳の名を冠した著作が並んでいる。

 そう簡単に、なろうと思ってなれる職業ではない。もしも自分が小説家だったら、もっと自慢する。

これ見よがしに表紙を出して飾っておくし、たくさんストックしておいて、欲しいと言われる前からサインを書いて手渡せるようにしておく。

「君のいた世界に、俺と同じ名前の作家はいなかったか?」

「うーん。ごめんなさい。俺、あんまり小説とか興味なくて」

 無教養な馬鹿だと思われただろうか。学校の教科書に載っていた短編ですら、読んでいる最中に眠くなってしまったほどだ。

 馬鹿正直な日高の告白に、早見は気を悪くした様子はなかった。

「まあ、あちらの俺は小説家じゃないかもしれないからな」

 早見は日高に、持っていた本を手渡した。

「この本は、パラレルワールドを扱った話だから、読んでみるといい」

 勧められて、「う」とも「あ」ともつかない返事をして、日高はにへら、と笑った。果たしてこの分厚さを読みきれるかというと、自信はまるでなかった。

「……って、今は早見さんのお仕事を知りたいんじゃなくて、俺が留守番すらさせてもらえない理由なんですけど」

「それが、おおいに関係があるんだ」

 小説家としての早見は、かなりの売れっ子だ。二十代後半という若さで、自分の城を構え、稼ぎの一部を運用する以外、労働していない。大きな本棚の二段分を占める冊数を出版できているのが、その証拠である。

「家政婦さんも、うちに荷物を運んでくれる配送員も、実は俺のファンなんだ。本名でやっているもんだから、すぐに作家だとバレてしまってね」

 個人情報を漏洩するような人物ではないが、滅多にメディアに姿を見せない小説家と言葉を交わすことを、楽しみにしている。

「そんな彼らに、君のように見目のいい少年と暮らしていることがばれてみろ」

「えっ」

 見目がいい、とは初めて言われた言葉だった。

 もちろん、アルファの支配欲や庇護欲を駆り立てるべく、オメガは美しい容姿のことが多い。

が、親に見放され、生きていくのに精一杯だった日高は、愛されるために丹念にケアをしてきた他のオメガの身体と違い、あちこちボロボロだ。

 特に指先や唇はガサガサに荒れていて、油断するとすぐに血が滲む。髪も先端になるに従って水分を失い、不規則に跳ねてしまうのが悩みだ。 

 美しさは元々の造形よりも、日々の生活やストレスによって、大きく加点も減点もされるものであるということを、日高は身をもって、思い知っていた。

 早見は日高の反応が意外そうだった。怪訝そうな顔で日高を覗き込み、まじまじと観察する。視線を逸らそうとしたが、目が離せなかった。

 美しいというのなら、目の前の男の方だ。山奥のコテージに引きこもっているのがもったいない、すこぶる美男である。

街を歩いていれば、すれ違う人々の目を引くに違いない。険のある目が玉に瑕とはいうものの、それさえも早見岳を形づくる要素のひとつであると思えば、好ましくも見えてくる。

「君は誰がどう見ても、美少年だろう。素直そうな、いい目をしている」

「そんな、こと」

 自分の顔の中で一番嫌いなパーツを褒められて、日高はきまり悪く、俯いた。照れていると判断したのか、早見は「とにかく」と、日高に来客対応を任せない理由に話を戻した。

「君は目立つ。俺と一緒に暮らしていると気づかれれば、いらぬ詮索を受ける。そういうのが嫌で引きこもっているんだ。人の口には戸を立てられない」

 ならば最初から、日高の存在を隠し通すのが得策である。

 言葉を何度か変えて説得を受け、日高は不承不承頷いた。頑なな早見には、何を言っても無駄だろう。折を見て、もう一度打診すればいい。

 早見は日高が了承したのを見て、肩の力を抜いた。

「それじゃあ俺は、仕事をしているから。何かあれば、ドアをノックしてくれ」

 出て行く彼を見送って、日高は本の壁を再び見上げ、小さく息を吐いた。

9話

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