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<8話
「いっ!」
「大丈夫かよ、月島」
サークル活動を通して、だいぶ上達したと思った針仕事であったが、気を抜くと指を突き刺してしまう。
香山が「絆創膏いる?」と尋ねてくるが、ぽっちりと血が滲んだだけなので、断って、指先を含んだ。
血の味はちっとも美味しくないけれど、冬夜の一番の友人は、いつも美味しそうに冬夜の血液を摂取する。
応急処置で銜えた指だが、冬夜は思わず、赤面する。
首筋から吸血されるのは洒落にならないから、と、慎太郎には指先から吸血してもらっている。条件反射でそのことを思い出してしまったのだ。
不審に思われていないだろうか。香山の顔を窺うが、彼は自分の手元に集中していた。
次の慰問ではエプロンシアターを行うことになっている。三匹のこぶたをフェルトでちまちまと作っているのだが、凝り始めるといつまで経っても終わらない。
「そろそろ先輩たちも、引退だな」
「あぁ、そうだな」
冬夜たちが在籍するサークルは、三年生がメインとなって運営する。十一月には四年生が完全に引退し、現三年生も来年の就職活動のために、半隠居状態となるのだ。
二年である冬夜たちがメインとなって活動する時期が近いということにもなる。
「どんな出し物にする?」
同学年で真面目に活動している男子が、香山と冬夜の二人しかいないので、必然的に二人で話をすることが多い。
うーん、とうなり始めた冬夜に対して、香山は笑った。可愛らしい彼の笑顔は、思わずぼーっと見惚れてしまうくらいだった。
「まだ具体的じゃなくっていいよ」
「自分が顔出ししなくてもいい奴かな……着ぐるみ着るとか」
冬夜の言葉に、香山は手を止め、溜息をついた。
「まだ気にしてんの?」
もう一年以上前になるが、冬夜の心の傷は、まだ癒えていない。子供に泣かれるのは仕方がないこととはいえ、はっきりと来るなと言われたのは初めてだったのである。
「う……ん。みんなに迷惑かけるしさ」
「迷惑なんかじゃないし! もっと自信持ちなよ!」
香山は力説するが、彼の弁に熱が入れば入るほど、冬夜の心は冷めて、すっと引いてしまう。
自信が持てるのは、香山みたいに顔のいい奴だけだよ。
それを言わないだけの分別は、まだ残っていた。
>10話
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