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<【25】
「レイ。これはここにやっていいのか?」
「あ、えーと。それはサム爺に……サム爺! これってどうするの?」
ある秋の日、レイナールはジョシュアとともに、庭に出ていた。一角を整備してもらい、レイナール専用にした。サムにいろいろ助言をもらい、花を植えている。仕事を休んだジョシュアも手伝ってくれている。
帝国への宣戦布告が失敗して、ジョシュアが責任を取らされることはなかった。宰相の説得や、皇帝から受け取った書状が取りなしてくれたのだろう。
彼は今もなお将軍であり、国王にはぶつぶつと文句を言われているが、どこ吹く風で淡々と職務をこなしている。
万一、王が手出しをしてきたら、グェイン家は一門を率いて、亡命するつもりでいる。ヴァイスブルムはその選択肢の筆頭で、ヴァンを通じてアーノン公爵と繋がっていた。
戦巧者で鳴らしたジョシュアを手に入れれば、かの国は報復に出る可能性もあるため、宰相は必死だった。
帝国には、レイナールが定期的に書状を送っている。ボルカノ国王の愚かな行動を謝罪し続けるとともに、手出し無用の牽制を行っていた。
もしも、レイナールが逆に、帝国にボルカノを攻め入るように言えば、あの皇帝はすぐにでも押し入ってくるだろう。
まだまだ油断はできないが、ジョシュアとレイナールはひとまず、平和な日常を送っている。
とはいえ、ジョシュアもずっと将軍職に就いているつもりはない。あと数年のうちには、グェインの分家の人間にこのタウンハウスの管理や将軍職を任せ、本格的に国境防衛の任に就く準備を始める予定だ。
もちろん、レイナールも一緒に行く。王都とは違う、祖国とも違う場所で生きていく覚悟は、とうにできている。
グェインの血筋を残すことはできずとも、法律が許さずとも、自分は彼の唯一の相手だ。隣の位置は、誰にも渡さない。
スコップを使い、肥料を与えたジョシュアの額に浮かんだ汗を、レイナールはそっと拭った。
「これでいいか?」
「ええ。冬にはきれいな花が咲きますよ」
一緒に見ましょうね、と微笑んだレイナールの腰を抱いたジョシュアは、微笑んだ。
「そうだな。レイみたいな花が咲くのが、楽しみだ」
繊細なようで強い、希望の花。
笑い合って口づけたふたりの耳には、マリベルの「休憩なさいませんかー?」という声は、届かない。
(了)
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