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<23話
「母さんに?」
「それはこっち」
同じ包装だが、こちらの方が大きい。それでは、小さい方は誰あてだろう。うちには母しか女はいない。彼女宛のプレゼントを、見せびらかしたかっただけか?
彼女。いるのか。いないはずないか。天然だけど、男前だし。世話焼きタイプの年上のお姉さまとか。
茶を啜りながら、小さいプレゼントと大きいプレゼントと両方ちらちらと横目で見ていたら、香貴がこらえきれずに、ぷっと噴き出した。それから小さい包みを涼に差し出す。
「これは涼さんの」
「だってレディースじゃん」
いいから、と強く押され、涼は包装紙を開ける。いつもならまどろっこしくて、ビリビリに破ってしまうのだが、香貴に見られているので、丁寧にテープを剥がした。
中の箱に入っていたのは、ハンドクリームだった。涼は小さく溜息をつく。
「気持ちは嬉しいんだけど、こういうの使えないから」
というか、意味がない。水仕事が多く、葉や茎に引っかけて傷ができやすい手は、ボロボロだ。冬だけじゃなく、暖かい今の季節でも、涼の手の甲や指先はヒビだらけだし、ダメージの蓄積のせいで、皮膚も硬くなっている。
目の前には、職業柄、爪まできれいに磨かれ、整えられた香貴の手。仕事に励んでいる己の手を恥じるつもりはないが、彼の視界には入れていたくなくて、涼はできるかぎり自然に隠した。
ひどくなれば傷薬を塗り込むが、気休めにしかならない。ハンドクリームなど、言わずもがな。試そうとしたことすらない。
それに、こういうのは大抵、香料が使われていることが多く、花屋の業務には差し障る。天然の草花の香りが満ちる店の中に、人工の匂いを漂わせるわけにはいかない。わずかな違和感が、店への印象を決定づける。
「いいからいいから」
香貴はハンドクリームのチューブを勝手に開けて、自分の手のひらにたっぷりと取り出した。ほら、と鼻につきつけられる。匂いはなかった。
「プレゼントだから、ドラッグストアのはちょっとね。ブランド物ので無香料のってなかなかなくて探したんだよ」
いくらなのか見当がつかないが、数百円というレベルではない。また香貴の悪い癖……高価な品物を見境なく贈りたがるという癖が出た。あーあ、と思いながら、涼は苦笑いしつつ軽く拒んだ。
「だからお前、俺はこんな高いのもらう理由なんて」
「あるよ」
間髪入れない香貴の声は真剣で、舞台の上にいるかのように、よく通った。
>25話
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