薔薇をならべて(25)

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24話

「これはお礼。僕に大事なことを気づかせてくれた」

 言い聞かせる言葉は、耳を通り、脳に到達し、心に響き渡った。動きを止めた涼の手を取り、絡ませる。当然、手のひらに取り出したクリームが、涼の手にも付く。擦り込む動きによって、ぬちゃりと滑った音がする。

 見つめ合い、手を握り合っている。淫靡な音も相まって、ここが昼間のリビングとは思えない。

 ふさわしいのは、夜。二人きりのベッドルーム。月明かりも入らない闇の中。

 そんな錯覚に、涼は恥ずかしくなり、度々視線を逸らそうとする。至近距離でこちらを見る香貴は、「涼さん」とその都度呼んで、引き留める。

「僕、祖父母には大切にされてきたと思う」

 指と指を絡ませながら、ぽつりと話し始めたのを、涼は黙って聞く。無理矢理手を引き離すことは簡単だが、どうしてか、涼にはできなかった。

 物心ついたときから、香貴には父と母がいなかった。祖父母に聞いてみたことはあるけれど、表情を曇らせたので、おそらく最初からいなかったことにしておいた方がよいのだろうと思った。香貴は天然なところはあれど、人の心の機微には敏い方だった。

 両親は祖父母との折り合いが悪く、さらには香貴の養育を放棄した。両親に会いたいと口に出すことは、大好きな祖父母を傷つけることに繋がると悟った香貴は、彼らから与えられる愛情を一切拒絶することなく、成長した。

 愛とはすなわち、物品であった。

「これは僕の推測なんだけどね。きっと、おじいちゃんたちは、お母さんに対しては厳しくあれこれ制限したんじゃないかな。それこそ友達付き合いや、結婚相手も。それに反発して絶縁した。おじいちゃんたちはそのときの失敗の反動で、僕には欲しがるものを何でも買ってくれた」

 ときには、何の気なしに見ていただけのおもちゃでさえ、彼らは買い与えた。

 愛しているから、あなたのことが可愛いから、なんでも買いたくなっちゃうのよ。祖母は言った。

 そういう行動以外で、彼は愛を示してもらった記憶がないのだ。抱きしめられたり、キスをされたり、時には愛の鞭だと叱られたり。

 普通の子供ならば受け取り育つものは、一番身近な人からは与えられなかった。学校の教師はいびつな香貴に気づくと、言葉と行動で矯正しようとしたが、所詮は他人である。

 そのまま成長した香貴が芸能人になると、ファンの女性たちも加わった。香貴が雑誌で話した好みのブランドや買い換えなければならないと検討しているものを、つぶさにチェックしては、事務所に送りつけてくる。

 何の努力もしなくても、欲しいものが手に入る環境にいた香貴には、物欲があまりなかった。

26話

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