孤独な竜はとこしえの緑に守られる(14)

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13話

 前々日、前日と、地方の領主たちが王都の別宅へと入り、王城へ挨拶にやってきた。慇懃な彼らの言葉と態度を、内心辟易としながらも、そうは見せずに威厳を持って、シルヴェステルは受け入れた。

 あと一組で今日の予定は終了する。もう少しの辛抱だ。幸い、最後は神官長だ。彼の人となりは高潔であり、神殿の利権についても回りくどいことはせず、理詰めで真正面から交渉してくる性格のため、裏を読む必要がない。依頼していたベリルの世話係も、今日連れてくると事前に書状を受け取っていた。

 老いた神官長は、曲がった腰ながら、裾の長いローブを滑らかな足さばきで歩き、シルヴェステルに臣下の礼を取った。名目上は神にしか頭を下げないという出家者たちだが、竜王は別格である。

 彼の後ろには青年が、同様に頭を低く下げていた。長い髪は、まだら模様になっている。大部分は自分のものとは異なる白い色で、その中に黒い髪が見え隠れしている。ちょうど、雪解けの頃の大地のようだ。

 許しを得て顔を上げた彼は、目を閉じていた。非礼とは思わなかった。障害を苦に思い、出家する者も多い。青年も、目が見えないのかもしれない。右半分は包帯を巻いているうえ、前髪を垂らして隠している。

 シルヴェステルが背後の神官に注目しているのを知ってか知らずか、神官長は、

「この者は、心眼を鍛える修行を、かれこれ十年は続けておりますれば、ご容赦いただきたく」

 と、彼の閉ざされた瞳の理由を述べた。

「十年もか!」

 神官の修行の中に、視界を閉ざした状態で生活をするというものがあることは、聞き知っていた。俗世とほぼ関わりなく、神にすべてを捧げる覚悟をした宗教者にのみ許された、過酷なものである。シルヴェステルはそうまでする男が、俗の象徴である宮での生活を承諾したことについても目を見開いた。

「陛下のご希望に適う者は、この者しかおりませんで」

 出家してしまえば、人間族も竜人族も関係なくなる。などというのは、建前だ。現に神官長をはじめ、神殿の上層部は竜人族で占められているし、内部での人間族への差別やいじめもまた、密かに横行していると聞く。

 世話係として連れてこられた青年は、竜人族か人間族か、判断に迷った。白い髪や高い身長は竜人族の特徴だが、頭髪の黒い部分の説明がつかない。

 おそらくは、混血であろう。彼の辿ってきた困難な道のりを、シルヴェステルは手に取るように想像ができた。竜人からも人間からも差別され、虐待されてきたに違いない。彼がすべての者に平等な神に縋るのも、頷ける。

 シルヴェステルは滅多に見せない微笑を青年に向けた。竜王に好意を向けられるとは、思ってもいなかったのだろう。空気の変化を感じ取った青年は、慌てて跪き、「ナーガと申します。お妃様のお役に立てますよう、精一杯努めさせていただきます」と、震える声で自己紹介をした。

「では早速、後宮へと向かおうか」

 ベリルとの相性は、実際に引き合わせ、ともに過ごさせてみないとわからない。しばらくはカミーユに事細かに報告させ、様子を見るつもりだ。

 シルヴェステル自ら後宮へと案内すべく立ち上がったところで、謁見の間にカミーユがやってきた。自身とは気安い中とはいえ、神官長に対して失礼である。顔をしかめて、「カミーユ!」と、叱責しかけた。

 しかしカミーユの様子は尋常ではない。無表情を装っているが、額には脂汗が浮かんでいる。

15話

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