孤独な竜はとこしえの緑に守られる(40)

スポンサーリンク
BL

<<はじめから読む!

39話

 首には所有の証の首輪を嵌められ、足首の枷は長い鎖でベッドに繋がれた。ぎりぎりで部屋から出られない長さで、引きずるにはベッドは重すぎる。身体は丈夫でも、力は一般的な人間族並のベリルでは、無理に脱出することは不可能だ。

 何より我慢ならなかったのは、用を足すのに厠へ行くときだった。ジョゼフやナーガに頼み込んで鎖を外してもらい、まるで散歩に行く犬のように連れて行かれる。

 もともと近衛兵から尊敬されていたわけではないが、道中をニヤニヤと見られることは耐えがたく、限界まで我慢するようになってしまったベリルを、ナーガは悲しい目で気遣う。ジョゼフもまた、ベリルの奴隷扱いに責任を感じ、目を合わせようとしない。話しかけても、完全に無視される。

 これまでだって、自由な外出を許されていたわけではない。だが、こんな風に監禁されるとは思わなかった。ベリルはシルヴェステルに対して、自分たちの冤罪を晴らそうと懸命に働きかけるのだが、彼は聞く耳を持たない。

 獣の交尾でも、もっと愛に溢れているのではないかと思うほど、激しく犯される夜が続いている。

 後宮の外の出来事は、ナーガに頼るしかなかった。彼は今、自分の世話だけではなく、シルヴェステルの側近代理も務めている。

 カミーユは無期限の謹慎を命じられた。ベリルとの密通の疑いをかけられたのだと、庶民の間ですら、すでに噂になっているらしい。また、カミーユの父である宰相も連座して自宅に蟄居中なので、政治はずいぶんと長く混乱したままだという。 

 いつの間にか夏の暑い盛りを過ぎて、もうすぐ秋。シルヴェステルに拾われた季節がやってくる。

 頑丈さだけが取り柄のベリルも、閉鎖空間での生活を余儀なくされたうえ、毎晩の性交に疲労は隠せない。気絶するまで抱き潰されて、午前中はベッドの上から動けない。午後になってようやく身動きが取れるようになったところで、読書も会話も許されず、再び夜が来る。

 暗闇の中、表情のないシルヴェステルに組み敷かれる度、ベリルは何とか話をしようと試みるのだが、失敗に終わっている。

 昼間の執務室ならば、誰かの前であれば、シルヴェステルもまともに話をしてくれるだろうか。

 そう考えたベリルは、もう何度もナーガに交渉をしていた。どうか、シルヴェステルの元に連れていってほしい。鎖で繋がれたままで構わないから、と。

「ナーガは、今のこの状態が正しいと思っているの?」

 ベッドからなんとか身体を起こすことができるほどに回復したベリルは、水差しを受け取りつつ聞いた。それは、と言葉を濁すが、視線を逸らしたのが何よりも雄弁な答えになっている。

「あなたは今も、神に従う男でしょう。竜王の配下じゃない。自分の良心に従ってほしい。どうか、俺を陛下のもとに」

「ベリル様……」

 還俗後も着たままの神官服の袖を、ぎゅっと握り引いた。見上げる目と見下ろす目がぶつかり合う。真剣な思いと迷い。どちらに分があるかは、一目瞭然だった。

 細く長い溜息をついたナーガは、ベッドの支柱に縛りつけてあった鎖をほどいた。もちろん彼は鎖を持ったまま、離すことはない。完全とはいえないが、ベリルは自由を勝ち取った。

「ありがとう」

 微笑むと、ナーガもぎこちなく笑みを返してくる。竜王の命令違反の罰が恐ろしいのかもしれない。

 大丈夫、俺が楯になるよ。

 ぽんぽんと彼の肩を叩き、ベリルは扉を見据えた。この先、いかなることがあっても、シルヴェステルに会って話をするまでは、おめおめと逃げ帰ったりはしない。

 早く行こうと引っ張ると、ベリルの首輪が締まる。

 部屋の隅で黙っているジョゼフに、何か用でもあるのかと振り返ると、ナーガは微笑みを浮かべ、ベリルの背を押した。ジョゼフの顔は、ちょうどナーガに隠れて見えなかった。

 釈然としないものを感じながら、ベリルはそっとドアを開けた。外には見張りの近衛がいるはずだったからだ。ベリルを守るためではなく、ベリルが脱走しないようにするためと、彼らの職務内容は変わってしまっている。 

 こちらは非力なナーガ連れだ。武装した兵士には敵わない。見つかりませんように、と緊張していたベリルは、外の様子に拍子抜けしてしまった。

41話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました