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<18話
水曜日の全体練習および裏方の人間も含めたミーティング前に、高岩に背中を叩かれた。
「いっ……でぇぇ」
彼は自分の馬鹿力に自覚がないのか、飛天は毎回、痛みに七転八倒する。背中に手形がべったりとついているんじゃないだろうか。
「なんなんすか、高岩さん!」
涙目になった飛天は、高岩を睨んだ。相手はまったく怯まない。にやにや笑って、さらに追い打ちをかけてくる。危険を察知したのに、逃げる間もなくヘッドロックをかけられてしまった。
「ぐ、ぐるじ……」
腕を叩いてギブアップの意を伝えるが、分厚い筋肉のせいなのか、まったく伝わらない。
「よかったなぁお前。毎日毎日、俺を付き合わせた甲斐があって」
へらへら笑って、ようやく高岩は飛天を解放した。大きく深呼吸をして、飛天は彼の言葉を反芻する。
よかったな、ということは。
全体ミーティングでは、半月先のショーやイベントでの配役等が発表される。見習いなので、これまでは会場整備などの雑用ばかりをこなしていた。
早くショーに出たい。悪役じゃなくて、ヒーローになりたい。
「おはよう」
社長が前に出た。小さい会社なので、ミーティングもトップが中心となって行われる。期待に満ちた目で、飛天たち若手は「おはようございます!」と返す。
先週土日のショーの反省を述べた後、社長は次の予定を話す。飛天の名前はなかなか呼ばれない。
今回もダメか……。そう思った矢先のことだった。
「それじゃ、七月末のA展示場のイベントだが……品川」
「は、はい!」
深い皺の刻まれた日に焼けた顔が、ニッ、と笑った。
飛天は小さくガッツポーズを取る。いよいよデビューである。
アイドルのときは「いつか」と夢を見るばかりで、まったく具体的な道筋が見えなかった。別の道ではあるが、「デビュー」できるとなって、あの頃の夢も希望も、一気に蘇ってくるような気がした。
帰り道、飛天ははやる気持ちを抑えられず、映理に電話をかけた。彼女は自分のことのように喜んでくれて、「絶対に行きます!」と、約束した。
>20話
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