高嶺のガワオタ(19)

スポンサーリンク
ライト文芸

<<はじめから読む!

18話

 水曜日の全体練習および裏方の人間も含めたミーティング前に、高岩に背中を叩かれた。

「いっ……でぇぇ」

 彼は自分の馬鹿力に自覚がないのか、飛天は毎回、痛みに七転八倒する。背中に手形がべったりとついているんじゃないだろうか。

「なんなんすか、高岩さん!」

 涙目になった飛天は、高岩を睨んだ。相手はまったく怯まない。にやにや笑って、さらに追い打ちをかけてくる。危険を察知したのに、逃げる間もなくヘッドロックをかけられてしまった。

「ぐ、ぐるじ……」

 腕を叩いてギブアップの意を伝えるが、分厚い筋肉のせいなのか、まったく伝わらない。

「よかったなぁお前。毎日毎日、俺を付き合わせた甲斐があって」

 へらへら笑って、ようやく高岩は飛天を解放した。大きく深呼吸をして、飛天は彼の言葉を反芻する。

 よかったな、ということは。

 全体ミーティングでは、半月先のショーやイベントでの配役等が発表される。見習いなので、これまでは会場整備などの雑用ばかりをこなしていた。

 早くショーに出たい。悪役じゃなくて、ヒーローになりたい。

「おはよう」

 社長が前に出た。小さい会社なので、ミーティングもトップが中心となって行われる。期待に満ちた目で、飛天たち若手は「おはようございます!」と返す。

 先週土日のショーの反省を述べた後、社長は次の予定を話す。飛天の名前はなかなか呼ばれない。

 今回もダメか……。そう思った矢先のことだった。

「それじゃ、七月末のA展示場のイベントだが……品川」

「は、はい!」

 深い皺の刻まれた日に焼けた顔が、ニッ、と笑った。

 飛天は小さくガッツポーズを取る。いよいよデビューである。

 アイドルのときは「いつか」と夢を見るばかりで、まったく具体的な道筋が見えなかった。別の道ではあるが、「デビュー」できるとなって、あの頃の夢も希望も、一気に蘇ってくるような気がした。

 帰り道、飛天ははやる気持ちを抑えられず、映理に電話をかけた。彼女は自分のことのように喜んでくれて、「絶対に行きます!」と、約束した。

20話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました