高嶺のガワオタ(43)

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ライト文芸

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42話

 パソコンはじめ、機材は次郎に借りた。スマートフォンからでもできるらしいが、やり直しがきかないから、しっかり大きな画面で確認しながらやりたい。

 次郎は心配そうにしていたが、飛天が大丈夫だと肩を叩くと、小さく息を吐いた。

「どうせ止めても聞かないから、止めないけど。無茶なことだけはしないでね」

「ただけじめをつけるだけだ。危険も何もない」

 飛天は自宅にパソコンをセットして、ネットに繋げた。事前にスマホから動画サイトのアカウント登録を済ませていたので、ログインする。

 原稿は、あえて用意しなかった。ちらちらと手元を見ながらでは、言葉の効力が薄れてしまう気がする。

 それに、原稿があったところで、言葉はなまものだ。次から次に、言いたいことが溢れてきて、結局うやむやになるのだ。だったら最初に考える時間が無駄だ。

 自室には誰も入ってこないように、強く言ってある。スマートフォンの電源を切る前に、映理とのやり取りを見返す。

 最初は二人とも、ぎこちなかった。遊びに行く約束をするときだけ、メッセージを送った。

 でも今は、特にデートの約束をするでもなく、飛天は他愛のない話をする。とりとめなく続く短い応酬を見直して、飛天は唇に、知らず笑みを浮かべていた。

「よし」

 飛天はわざと声に出して、映理にこれからライブ放送する動画サイトのURLを送信する。既読になったのを確認することなく、そのまま電源を切った。

 放送開始のボタンをクリックする。生放送開始とともに、ぽつぽつと視聴者数が上がっていくが、皆、どこから現れるのだろうか。

 視聴者数が百人を超えたところで、口を開いた。

「品川飛天です」

 軽く頭を下げる。一瞬で、爆発的に視聴者数が増える。おそらく、他のSNSに動画サイトのURLが貼られたのだろう。

『マジで!?!?!?』

『誰?』

『消えたんじゃねぇのか、こいつ』

 リアルタイムでつくコメントに、もっと心が抉られるかと思った。しかし、コメントのスピードが速いので、読んでいる端から流れていく。集中してひとつひとつの文章を読むことはできない。飛天の心はちくりと針で刺されるが、ただそれだけだ。

 落ち着いて、相手にはっきりと伝わるように。

 演技のド素人だったときに、先輩から言われた言葉だった。誰かになり切るのが難しくても、伝えなければならない言葉を、耳に心に届けるように心掛けるのだ、と。

「以前SNSで炎上し、新番組を降板することになり、多大なご迷惑をおかけしました。まずは、心より、お詫びいたします」

 深く頭を下げ、謝意を示す。一、二、三、四、五。顔を上げると、コメント欄が荒れていた。おそらく、炎上時のまとめが再び拡散されたのだろう。

 飛天は自分を非難するコメントを見ることはやめて、真っ直ぐにカメラを……その向こうにいる視聴者ひとりひとりを見つめ、話を続ける。

「問題になった発言は、僕がまだ中学生のときの雑誌インタビューでのものです。考えが足りず、特撮を馬鹿にするような発言をしました。そして僕は、自分がそんなことを言ったという記憶すらなくして、特撮ドラマにレギュラー出演することになったのです」

 自分自身で蒸し返して、「BAD」評価である指を下に向けたアイコンのクリック件数だけが増えていくのがわかった。

 コメント欄は、炎上当時のデジャビュかと思うほど、擁護する元ファンと、攻撃するオタクとの合戦になっていた。

44話

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