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<37話
「呉井さんってさ」
次の日の放課後、俺は呉井さんの後ろをついていった。振り向いた彼女は、いつもどおりの美少女っぷりを発揮している。
「何ですか? 明日川くん」
「いやいやいや、何ですか、じゃなくてね。その格好は、なに?」
呉井さんはきょとんとした目で、自分の姿を見回した。変なところはございません、という顔をするが、校内で許されているのは、制服またはジャージだ。呉井さんは制服を着てはいるものの、上から羽織っているものに問題がある。カーディガンやセーターやベストではない。
「探偵の正装はこうだと、モノの本には書いてありました!」
くるっと一回転して両手を広げてポーズ。いや、ファッションショーか。マイペースな御仁である。
呉井さんが制服の上に纏っているのは、名探偵ホームズといえば、この格好だよねっていうアレ。鹿撃ち帽っていうんだっけ? 揃いのチェック柄の……チェック柄の……この服はなんていうんだ?
「インバネスコート、といいます」
さすが呉井さんは博識である……じゃなくって。
感心するやら呆れるやら、俺の感情などお構いなしに、呉井さんは手にした虫眼鏡を覗いている。うんうん。それも探偵には欠かせないアイテムだね。もういいや。呉井さんは、形から入るタイプということにしておく。
そういえば、ホームズといえばこの格好! というのはあるが、その助手のワトソン博士のイメージは、ホームズに比べてぼける。英国紳士よろしく、トレンチコートに中折れ帽子で俺もキメるべきだったか。当然この思考は、現実逃避である。
美少女探偵・呉井さんのおともの俺は、制服姿もあいまって、どちらかといえば小林少年かな。
服装こそ完璧(?)な呉井さんだったが、捜査はパーフェクトにうまくはいかない。筆箱遺棄事件の目撃情報を集めるべく、聞き込みをしているわけだが、人間の記憶はとても曖昧だ。
「昨日の昼休み開始十五分くらい、音楽室から不審な人物が出てきたのを見てはいませんか?」
聞き方!
>39話
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