クレイジー・マッドは転生しない(89)

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クレイジー・マッドは転生しない

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88話

「ひとつは、日向瑠奈を悪魔だと言った女の子。その子、インタビューの数か月後に、死んだんだ」

「え?」

「自殺だったそうだ」

 瑠奈の場合と違って断定されたのは、自室で首を吊って死んだからだった。遺書は残っていなかったが、侵入者の形跡もなければ、親子間で問題を抱えていたわけでもない。状況から見て、ほぼ間違いなく自死だと判断された。

「どうして?」

 杉原は首を横に振る。

「だって、後追いしそうなのは、一人目の子じゃないですか」

 あの世へ逝ってしまった救いの女神を追いかけて、喜びのうちに自死を選択することだって、ありそうな熱狂ぶりだった。なのに、彼女は生きて、もう一人は死を選んだ。

 釈然としないけれど、今は少女の自殺の理由を考えている場合ではない。呉井さんを助けるために、真実に近づきたいだけなんだ。

「……ふたつめは?」

「日向瑠奈が死んだ現場には、もう一人いた。彼女より少し年下の、女の子だ」

 警察は目撃者として居合わせた少女の事情聴取を行ったが、目の前で人が死んだことにショックを受けたのか、彼女は一切言葉を発することはなかったという。涙も見せずに、ただ虚空を見つめていた。

 おそらく、その少女は。

「お役に立てたかな」

 俺の表情を見て、杉原は確信を持ったようだった。勝手に彼は伝票を取って席を立とうとしたので、俺は止めた。

「お呼び立てしたのは俺です。俺がここは払います」

「子供が遠慮するなよ」

 いいえ、と俺は頑として譲らなかった。

「話を聞いたうえに奢ってもらったら、あなたに借りができてしまいます。それを楯にして、俺に追加取材をしようとされるのは、困りますから」

 今更、日向瑠奈の事件を調べている高校生など、フリーライターなる輩の好奇心を刺激するには十分だ。後日、「そういえばどうなったんだい?」などと言ってこられるのは、嫌なのだ。この男に、呉井さんの存在を知られたくない。

 事件現場にいた少女が呉井さんだということを、知られるわけにはいかないのだ。

 俺は伝票を押さえる指に力を籠める。目を逸らさずに杉原をじっと見ていると、彼は根負けして、「わかったよ」と渋々離した。

「それじゃ、ごちそうさん。まぁ頑張れよ」

「はい。ありがとうございました」

 杉原を見送って、俺は伝票の金額を確認する。多少痛い出費だが、探偵費用だと思えば、安いもんだろう。

90話

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