クレイジー・マッドは転生しない(88)

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クレイジー・マッドは転生しない

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87話

 二人とも、瑠奈のクラスメイトだった。瑠奈は読者モデルをしながら、学級委員も務め、成績も優秀な美少女だったらしい。天は二物も三物も与える。呉井さんと同じ……いや、呉井さんの上位互換が、日向瑠奈だ。呉井さんは学級委員ではあるが、クラスの人間からは遠巻きにされている。瑠奈はクラスでも人気者だった。

 インタビューに応じた一人は、杉原を前にして、落ち着きなく身体を揺すったり、手遊びをしたりと、コミュニケーションにやや問題を抱えていそうなタイプだった。どのクラスにも一人はいるタイプだ。

「彼女自身のことを聞いたときには、挙動不審でなかなか答えなかった。でも、日向瑠奈の話を向けたら、一変した」

 杉原に向かって、にたりと微笑んだという。一瞬、呆気に取られてしまった杉原をよそに、彼女はまさしく立て板に水とばかりに、一気に言葉を吐き出した。それはどれも、死んだ日向瑠奈のことを賛美するものだった。

 美しく、優しく、尊いお方。とてもじゃないが、同級生に対して使う形容ではない。

「ずいぶんとカリスマ性のある子だったんだな、と思った。ここまで人を惹きつけ、熱狂させるなんて、読モなんてお遊びじゃなく、本気でモデルを目指したら、一気に若い女子タレントの構図がひっくり返っていたかもしれないと感じたな」

 でも、瑠奈のことを語る少女の反応が鬼気迫るものがあったので、杉原は二人目のインタビューを取りつけた。

 二人目もまた、口が重かった。でもそれは、コミュニケーション能力の欠如ではなくて、もともとの個性であり、クラスでも少女は孤立していたが、彼女自身がそう望んでいた。彼女は帰国子女で、日本の女子高生がいつでもベタベタしているのを不思議に思い、監察をしていた。

 そんな少女の目から見て、日向瑠奈は異質だった。教室内に複数のグループが存在するのは、女子同士の付き合いならば、一般的なことだ。瑠奈はふらふらと、すべてのグループを渡り歩いていた。花壇をひらひらと気まぐれに舞う、蝶のように。

 瑠奈はグループに違和感なく溶け込める少女だった。ギャルグループには、近隣の男子校の誰それが格好いいという話題で、オタクグループには流行りの乙女ゲームの話題で。特に口調を変えているわけではないのだが、すっと馴染んでいく。

 それだけなら、少女は瑠奈のことを「悪魔」と表現しなかっただろう。だが、瑠奈がクラスのグループを飛び回っているうちに、奇妙なことが起きた。

「それまでずっと仲の良かったグループが急に崩壊したり、カーストが下の人間が下剋上を果たしたり。教師には見えない部分で、クラスの均衡が崩れていったんだとさ」

 一匹狼の少女には、恐ろしい光景に見えた。そしてその渦の中心にいて、教室の人間すべてを操っているのは日向瑠奈。そうとしか、思えなかった。

「杉原さんは、日向瑠奈のことを、どちらだと思いますか?」

 俺は又聞きでしかないし、瑠奈を疑っているから公平に話をジャッジすることができない。どうしても、悪魔の方に一票を投じたくなる。

「さあな。そこを判断するのは、俺の仕事じゃないんだ」

 フリーライターが書くのは、あくまでも事実のみ。真相を追及することはできても、推理をすることは、決してあってはならない。自分の気持ちを論じることは、杉原にとtってはご法度なのだ。

 でも、と杉原はコーヒーを啜ってから言った。

「記事にしなかったネタが、二つある」

 きっとそれこそが、俺の聞きたかった話だ。

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