3 ミッキー、本格始動(2)

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3-1話

それから注意深く見ていると、千尋と佐川はよく二人でいることに気がついた。以前からなのか、それともつい最近からなのか、靖男にはわからなかった。女装オナニーに耽っているという秘密を知るまでは、靖男にとって千尋は「同じサークルの仲間」という意識しかなく、じっと見るということがなかったからだ。

 佐川とともにいる千尋は緊張のかけらもなく、緩んだ笑顔を見せる。それは普段人前で見せているのともまた異なるもので、靖男の心をざわつかせるのに十分な効力を持つ。

 その日は二限の講義が教授都合によって突如休講となった。三限までの時間をどう潰そうかと思っていたところで、敏之に会ったので二人で学食へ向かうことにする。

 和桜大学の学食は第一・第二は「学食」というイメージそのままの食堂であるが、三年前に新しくできた学食は「カフェテリア」という洒落た名称で呼ばれている。洋食がメインで、何よりも近所のパティスリーと連携して、ケーキを提供しているのが大きな特徴だ。主に女子学生に人気があり、昼時は混雑する。

 カフェテリアはまだ空いていた。昼食とケーキをそれぞれ頼んで、窓際の席についた。

「かにクリームコロッケうまい。毎日食いたい」

「お前の彼女、調理のガッコ通ってるんじゃなかったっけ? 作ってもらえばいいじゃん」

「学校でたくさん作ってるから家帰ったら作りたくないとか言うんだよ、佳乃(かの)ちゃん……」

 嬉々として同棲中の彼女の話を始めた敏之に、靖男は話題の選択に失敗した、と思った。適当に相槌を打ち、ハンバーグを食べる。

 ひとしきり話し終わって満足をしたのか、敏之は「で、お前はどうなのよ?」と靖男に話を振った。「俺?」と口をもごもごさせながら聞き返すと、行儀悪く箸で敏之は靖男の顔を指す。

「春休み前にユキちゃんと別れてからどーなのよって話」

 久しぶりに聞いた。もうとうに忘れていた。いつも通り靖男が振られる側だったのだが、失恋を遥かにしのぐ衝撃が四月にあったものだから、傷口は広がらなかった。

「あ~、ユキね。ユキ」

「……お前結構入れ込んでなかったっけ?」

「そうだっけ」

 確かに付き合っているときは大切な存在だった。それは今までの彼女たちも同様だ。ユキは靖男より一〇センチ背が高くスレンダーな美人だった。セックスの相性も抜群だったが、当然のように背の高い男に取られてしまった。

 身長と同じで子供みたいに駄々をこねるのね、なんて言われたらショックで寝込んでしまう。別れ際くらい格好良くて大人な男を演出したいという靖男の最後の意地によって、笑顔で別れたのだった。。

 ユキとのセックスを思い出し、そういえば最近また抜いてすらいない。また五十嵐んちでも行ってAVでも見るか、と脳内で悶々と考えていると、敏之がじっとこちらを見ていることに気がつく。

「なに?」

「お前さぁ……そういうとこあるよね」

「そういうとこって?」

 敏之はかにクリームコロッケを完食し、ケーキに手を伸ばした。

「あんまり誰にも執着しないっていうか……ほんとにユキちゃんのこと好きだった?」

 そう聞かれて靖男は黙った。好きは好きだけれど、別れるとすっかりと忘れてしまう。

「好き……だったと思うんだけどなあ、俺は」

 あーあ、と溜息をつく靖男を、敏之は「そのうち運命の相手が現れるさ。俺と佳乃ちゃんのように!」と結局また自分と彼女の話をし始めた。

 敏之の惚気話を聞き流して頬杖をついていると、混雑してきたカフェテリアに、背の高い二人組が現れた。周りの八割が女子学生だから異様な光景だ。注目を浴びていることにまるで頓着していない様子で、片割れがケーキのディスプレイに釘付けになっている。千尋だ。そしてもう一人は、案の定の佐川。

「……俺、用事思い出したわ」

 二人で仲睦まじくケーキをつつく姿は見たくないし、自分たちを彼らが発見して、にこやかに近づいてくるのも困る。

「えー。ケーキ残ってんぞ」

「お前にやるよ」

 ラッキー、と敏之は言いながら、すでに皿を引き寄せている。

 二人に見つからないようにこそこそと、カフェテリアを退出した。途端にムシムシとした鬱陶しさに襲われて、一瞬くらりと頭が揺れる。もうすぐ梅雨入りだ。嫌な季節になる。

 本当は用事などない靖男は、三限の時間までどこで時間をつぶそうか考えつつ、歩き出した。

4-1話

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