3 ミッキー、本格始動(1)

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2-3話

 文系の三年生といえば、普通はほとんどの基本単位を取得し終えて暇になる。特に靖男は経済学部で大学院への進学を希望しているわけでもないので、バイトやサークルに精を出せる最後の時間だ。

 連休明けすぐに、サークルの招集がかかった。靖男が所属しているのは、十月に行われる学園祭の実行委員会だ。

 和桜(わおう)大学は伝統と歴史ある全九学部からなる総合大学だ。その学園祭は十月の最終週の土日に行われ、満月祭(みつきさい)と呼ばれている。よって、実行委員たちのことを。

「はい、ミッキー集合~。今年度の満月祭、今日から本格的に準備始めるからよろしくな~」

 勿論、千葉にあるテーマパークとは何ら関係はない。

 総勢四、五十名の実行委員たちが集まっている様子は壮観だった。三年生は今年のメインを張るので、靖男たちは前方に座っている。講義のときでは考えられないことだ。隣には小澤(おざわ)敏之(としゆき)が座って頬杖をついている。

「張り切ってんな~。一年の頃からミカドになりたいなりたいって言ってたもんな」

 ミカド、というのは学園祭実行委員の委員長を指す言葉だ。一年のときからずっとミッキーとして活動してきた靖男たちと彼は旧知の仲である。そして千尋とも。靖男はこっそりと、斜め前に座る千尋を眺めた。

 相変わらずの美貌。ぴんと背筋を伸ばして座り、穏やかな笑みを浮かべてミカドになった同級生を見つめている。その顔からは、とてもじゃないが女装オナニーが趣味だとは思えない。

 例えばスマホの中の写真を隣にいる敏之に見せたところで「なにコレ合成? うまくできてんな!」と爆笑されるだけだろう。

 セーラー服を着た千尋がオナニーしたり、自分に脅迫されて言われるがままにフェラチオをして泣いている姿というのは、誰も見たことがない彼の表情だ。無表情でいると長身もあって怖がられることを自覚している千尋は、いつも微笑を唇に絶やさない。だがそれは、表情がないことと同じだ。

 フェラチオする千尋の動画は上手くはないがちゃんと撮れていた。本人にも見せた。何か喚いていたが、その日はそのまま放置して帰宅した。

 ゴールデンウィークに「そういえば忘れてた」と言って彼の家に勝手に上がり込み、先日手に入れたアダルトDVDを鑑賞した。なぜか見終わった後にお手製の焼きそばが出てきたのが不思議だった。

 女装も泣き顔もエロい顔も、全部自分しか知らないんだな、と思いながらいつも通りの顔で拍手している千尋を見ていると、自然と口元がにやついた。彼女もいなかったんだから、本当に、自分だけ。

「ねぇ、お前なんで一人で笑ってんの。キモいよ」

 敏之がこっそり耳打ちしてきて我に返った。そうだ、今は会合の途中だった。なんでもない、と言って正面を見る。各部署の部長たちの簡単な挨拶の途中だったが、まともに聞いていなかった。ちょっとだけ同級生に申し訳ない気持ちになった。

 千尋は財務局長であるため、席を立って前に出て、簡単に挨拶をした。一年はその背の高さにどよめいていた。

 席に戻った千尋をぼんやりと眺めていると、隣に座っている学生が彼の肩をぽん、と叩いた。同級生ではない。だが、靖男は彼のことをよく知っている。

「あれ、院じゃん。なんであんなとこいんの?」

 院、というのは前年度のミカドのことを指す。確か名前は――佐川(さがわ)。佐川洋介(ようすけ)。千尋に負けないほど身長が高く、ガッチリ型の体型をしている。

 そんな二人が前に座っているのは、目立って仕方がない。普通、院はほぼ隠居しており、なかなか公の舞台には姿を現さない。ミカドの要請があればすぐに応えるが、この会合に出る必要はないし、出るにしても後ろの席でどっしりと腰を落ち着けているのが普通だ。

「もしかして院政でもする気なんかな」

 うへぇ、と、敏之は嫌そうに顔を歪めた。現役委員に対して凄まじく干渉をしてくる院も、過去にはいた。事実、靖男たちが一年のときのミカドは完全に院の傀儡となっていて、実質二年連続で院がミカドを務めあげていたようなものだったと記憶している。

 去年委員長を務めた佐川は、院からの干渉をすべて跳ねのけ、過去五年で一番入場者数が多かったという実績の立役者である。その成功体験を元に、院政を敷こうと思ったとしても、おかしくはないが。

「……違うんじゃねぇかな」

 佐川はそんなタイプではない気がする。各部署にも積極的に顔を出しはしたけれど、自分の思い通りに学園祭を執り行おうとしていたわけではない。威圧感によって、佐川に見られているときの活動局の会議はいつもよりスピーディーに結論が出せた。

 そんな彼が四年になって、自分のために満月祭を行おうというふうに考えるはずがない、と靖男が意見を述べると、敏之も「そうだよな」と頷いた。

「けどそうなると、なんだってあそこにいるんだって話になるんだけど……五十嵐と仲いいんか?」

 お前知ってる? と敏之に問われて、靖男は首を横に振った。なんとなく、気に入らない。もしかすると佐川は、自分と同じく千尋の秘めた一面を、見たことがあるのか。

 靖男は佐川と千尋から、目が離せなかった。

3-2話

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