7 きっかけは鬼の襲来(4)

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7-3話

 千尋は千紗と靖男のために、料理の腕を振るった。最近全然できてなかったから腕落ちたかも、と言ったけれど、そんなことはなかった。

 食事中、千紗は靖男に対して、自分の弟が幼い頃どれだけ可愛かったかを力説した。弟の恋路をせめて応援しようというつもりだったのだろうけれど、本人に「恥ずかしいからやめて」と止められていた。

 嘘をついてバイトを早退して、昼間からビールを飲んでいる後ろめたさは、二人の会話を聞いていると薄れていく。きちんと話してみれば千紗と靖男は存外に気が合って、有意義な時間を過ごせたと言っていいだろう。千尋も二人の会話にほっとした様子だった。

 てっきり泊まっていくのかと思った千紗だったが、ホテルを予約してあるという。駅まで送るという千尋にくっついて、ついでに靖男も家に帰ることにした。

 少々酔っている千紗に対して「この駅の、東口で降りるんだからね! わかった? 東だよ、東!」としつこく言っている千尋は、身長差もあって過保護な兄にも見えた。自分は周りから、どう見えているんだろう。末の弟かな、と靖男は思った。

 ようやく送り出して、駅のホームで二人きりになる。うまい具合に周りには、誰もいない。あの言葉の真意を、知りたかった。

「あのさ。俺のこと、好きとかって……」

「うん。好きだよ、神崎のことが」

 あれから、と千尋は囁くような声で言った。

「泣きながら考えた。どうしてこうなっちゃったんだろうって。どこで間違ったんだろう、って」

「うん……俺も」

 あれこれ考えたけれど答えは出ずに、最終的には考えない、という逃げの道を取った靖男に対して、千尋は考え抜いた結果、答えを出したらしい。

「本当に間違いなんだろうか、っていう前提条件の見直しをした。俺は最初から、神崎のことが好きだったんだ、って気づいた。家での飲み会のときに気遣ってくれたときから……」

 部屋に上がり込まれたことも、何度も性的な奉仕を要求されたことも、俺は神崎にされて嫌なことなんて、本当は一つもなかったよ。間違いなんて、一つもなかったんだよ、と千尋は吐き出した。

「だから、神崎はこないだのこと、気にしないで。俺は全部受け入れてるし。あんな機会、もう二度とないだろうし」

「いが……」

「だって神崎は、自分より背の高い、『女の子』が好きだろ?」

 そうだ。今までの恋人は全員女だったし、それが当然だと思っていたし、男相手なんて考えてもみなかった。けれど千尋のことは大切な。

 ……大切な? 友達? それを千尋に対して、言うのか? 残酷にもほどがある。

 千尋はいつもどおり、穏やかな顔で靖男を見つめていた。靖男が千尋の秘密を知る前の、人との一定の距離を保つ笑顔だった。

「だから忘れてくれていい。俺としたことも、俺の告白も、俺と友達になったことも全部忘れて、これまでどおり、ただのサークル仲間ってことで構わないから」

 千尋はあまりにも普通に、そう告げた。頷く以外に何もできなかった自分を殴りたい。靖男はぼんやりした頭で、そう思った。

8-1話

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