ラスト ワン マイル(風戸野小路)

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レビュー

秋の読書週間です。

『ラスト ワン マイル』(風戸野小路)

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2020年集英社ノベル大賞の最終候補作。
去年は一作しか受賞作が出なかったのでちょっと寂しかったのですが、今年に入ってから、拾い上げで二作品出版されたので、ちょっと夢が膨らみました。

もう一作の『詩剣女侠』(未読。読了したらレビューします)が中華でオレンジ文庫っぽいというか、流行りのキャラ文芸・ライト文芸っぽいのに対して、こちらは一般エンタメに全振り。
帯で青木祐子先生(『これは経費で落ちません!』)も言ってますが、むしろなぜオレンジ文庫で出した? という話です。
(ノベル大賞に応募したからだよ)

まず主人公が異色。
国内大手の運送会社の平ドライバー、定年間際の秋山晋。
御年60歳・男性。

オレンジ文庫からも『これは経費で落ちません!』や『Bの戦場』(ゆきた志旗)など、お仕事モノは各種出ていますが、20~30代の若い女性が主人公で、仕事の他に恋愛描写もされているものがほとんど。

実際の読者層は置いておいて(本屋勤務ですが、この手の漫画イラスト表紙のキャラ文芸・ライト文芸って、意外と50代以上のマダムが買っていかれることが多いです)、ターゲット年齢からいくと、30代女性あたりなので妥当な設定だと思います。

が、秋山晋は60歳になる男性です。
イケオジ、という描写はされていません。
ちなみに既婚者で、落ち着いた熟年夫婦の生活に「こういう夫婦になりたいわ」という気持ちにはなるかもしれないけれど、恋愛的な胸のときめきはありません。

定年まであと一年の秋山が、否応なしに巻き込まれるトラブルを経験値と人望によってどうにかしていくのが痛快なお仕事小説です。
未読だし、ドラマも見ていないのですが、なんとなく、半沢直樹とか好きな人は好きそう・・・・・・と思いました。
ざまぁ味が足らないか?
いや、知らんけど。

うちの店だとオレンジ文庫は、講談社タイガ文庫やメディアワークス文庫などとひとまとめに棚に置いてあります。
担当者曰く、「可愛い系文庫」の棚です。
(なぜか新潮nexは新潮社の棚にあったり、富士見Lに至ってはコミック売り場のラノベ棚にあるけど)
なので、周りにあるのは少女漫画の流れを汲むイラスト表紙がほとんどだし、興味のある人しか棚を覗きません。

もったいないな~、と思います。
絶対秋山と似たような年齢の読者を取り込むこともできるポテンシャルがあるのに、棚の位置のせいで潜在的読者を逃している。
せっかく表紙もオレンジ文庫っぽくないのに。
(オレンジ文庫っぽいってなに)
集英社文庫のところに置いて、中高年男性の好きそうな作家のコメントを帯に載せたらもっと売れそう。

とにかく秋山が、格好いいんですよ。
イケオジじゃないって言ったけど、外見だけのイケオジなんてイケオジじゃないです。
若い男が顔だけでイケメンって言われるのは許せても、年長者には年を経たなりの中身が求められます。

彼が格好いいのは、「面倒くせぇ」と口では言いながらも、部下たちをしっかり守ろうとする姿が頼もしいから。
秋山の苦手なPC作業であったり資料の読み込みに関しては、逆に部下たちが助けてくれます。
こういう信頼関係って、理想的。

秋山は年齢に見合った経験(単純な仕事をこなした年数というだけでなく、苦く悲しい経験も)と、創業間もない頃から働いてきたことで培った人脈があり、定年退職を阻む「ジジイ狩り」から逃れ、ブラックな体質を改革する一助となってくれます。
私が彼と同じ年齢になっても、こうはなれないだろうと思いました。

黒幕は運輸業界全体への復讐を口にしますが、それは嘘だと感じました。
最初は本当に、父親の件で復讐心を抱えていたのでしょうけれど、権力を手にすると、駄目ですね。
復讐には、高潔さが求められます。
相手を刺せるのならば、この身はどうなってもいい、そんな覚悟が。
彼は会社の金を横領して私腹を肥やした時点で、ただの金に汚いオヤジに成り下がってしまいました。
外見描写は、秋山よりもよっぽどイケオジに描かれていたのにね。

ラストシーンは、とにかく爽やか。
秋山のお仕事人生のこれまでと、そしてこれからの幸せさを祈り、噛みしめながらページを閉じたのでした。

中高年男性主人公に尻込みしている人も、ぜひ読んでみてください。

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