【ネタバレ】「ザ・ビューティフル・ゲーム」@日生劇場1/11マチネ 

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レビュー

ミュージカルが好きです。
テニミュきっかけで好きになった若手俳優の他の舞台を見にいっていた時期が長くありました。
ストレートもミュージカルも、朗読劇もありました。
全部好きですが、特にミュージカルが好きです。
音楽の力はすごい。
セリフや身体、表情の演技だけじゃなく、歌とダンスによって、感情が揺り動かされるのが好きです。
なんとなくだけど、演者も歌っているときの方が感情が籠もっているような気がする。
知らんけど。

そんなミュージカルに、ジャニーズWESTの小瀧望さんが初めて挑戦するということで、楽しみにしていました。
小瀧さんの主演舞台は、私がファンクラブに入ってから毎年チケット申し込みをしているのですが、「エレファントマン」「検察側の証人」、二年連続で外れました。
三度目の正直で、今年、「ザ・ビューティフル・ゲーム」のチケットは当選しました。
(劇場のキャパの関係かなあ)

イギリス領北アイルランドの首都ベルファスト。
街はIRA(北アイルランドの独立を訴える組織でカトリック派)の活動が日増しに盛んになり、宗派の争いは街を分断していた。
それでもここで暮らすサッカーを愛する人々は、試合を「ザ・ビューティフル・ゲーム」と呼ぶ。
彼らにとって自分たちが応援するチームの試合は最も大事なものであり、彼らの人生そのものだった。
ジョンはそんなサッカーチームのエース選手であり、将来はプロサッカー選手になることを夢見ていた。
ジョンとチームメイトのトーマス、ダニエル、ジンジャー、デルたちはサッカーに青春を捧げ、チームの監督であるオドネル神父による厳しいトレーニングの元、国内リーグでの優勝を目指して毎日汗を流していた。
スタンドに座るメアリー、クリスティン、バーナデットら女の子たちは、それぞれの意中の若者たちに声援を送っていた。
しかし街はカトリック派とプロテスタント派の争いが日増しに激しくなり、ジョンやチームにも不穏な空気が忍び始めるのだった。
サッカー選手になる夢、愛する恋人との幸せな未来、仲間たちとの変わらない友情。
逆らうことのできない運命は、ジョンに人生を大きく変える選択をせまることになり……

「ザ・ビューティフル・ゲーム」公式サイトより

私のように、舞台となる北アイルランドの宗教紛争について予習をする時間がない! という方はぜひ、開演前に公演パンフレットを購入してください。
定価2000円です。エコバッグがない場合はビニール袋も10円で売っていました。
そして席に座ったら、後ろの方の専門家の先生によるとても、とてーーーもわかりやすい解説を読んでください。
読み終えてから舞台のセットに目をやります。
壁に手書きの「The Beautiful Game」の文字が踊っています。
他にも無数の落書きがあり、そこには「IRA」という文字や「ORANGE」という文字が発見できると思います。
IRAはあらすじにもあるとおり、カトリックによる独立を画策する組織。オレンジはプロテスタントの色です。
薄かったり汚かったり(まぁ落書きですしね)で、なかなか解読が難しいのですが、二カ所くらいわかりやすいところがありました。

「There was never good war or(andかも)bad peace」
「We want houses」

前者はわかりやすいと思います。
後者は開演前、一幕までは意味がわかりませんでした。
二幕の途中で、プロテスタントとカトリックで結婚した男女が、アメリカへ脱出するときにようやく意味がわかりました。
「アイルランド人はどこにでもいる」
「アイルランド人はどこでだって好かれる」
「アイルランド以外では」

この国はホームであり、ホームではない。
他国へと散り散りになる若者たちの叫びが、「We want houses」だったのだな、と。

国民の大部分が無宗教というか、困ったときには「神様仏様~!」という叫びを上げる人がほとんどである日本において、宗教問題は、なかなか理解しづらいところです。
全然違う神様を信仰しているのならまだしも(と、言いつつユダヤ教もキリスト教もイスラームも、神は同じなのか)、カトリックとプロテスタントは同じキリスト教です。
根っこは同じ神を信仰していることがよくわかるのが、メアリーと少女が歌う「神の国」。
同じメロディーを「カトリック」「プロテスタント」で歌詞を変え、根深い対立を感じさせます。

客席であらすじを読んでから舞台がスタートしました。
なぜか明るい一曲目から泣けて仕方がありませんでした。
チームが優勝して幸せ! カップルが成立して幸せ! からの一幕ラストの悲しみは言い表せません。
一番泣いたのは、ジョンがトーマス(ジョンとは親友同士でカトリック。プロテスタントのチームメイトを追い出すあたり、予兆はあった)を幇助した疑いで投獄され、ソロを歌い出したあたりから。
二幕は特に、ジョンとメアリーが結婚式を挙げて、妊娠がわかって、プレミアリーグの一部チームの入団テストをジョンが受けに行って・・・・・・と、ジョンとメアリーのラブデュエットが連続している中での、急転直下。
「俺は何もしていない。友達を助けただけ」
「俺はこんなところすぐに出て行ってやる!」

そう言って歌い出した彼が、囚人たち(おそらく全員が思想犯or彼らに影響されている)によって絡め取られていく様に絶望を覚えて辛かった。イキってるジョンを、囚人たちはあざ笑います。
「ここは大学だ」
と。
カトリックの独立過激派たちに洗脳されていったジョンは、出所することをメアリーに伝えませんでした。
ジョンはイングランドに渡り、IRAの戦士として戦うことを決意。
生まれたばかりの息子に、自分の着ていたユニフォームを託します。
メアリーは逆に、「あなたに渡そうと思って、焼き増ししてたの」と、一枚の写真を渡します。
息子の写真だと思うじゃないですか。
でも違うんです。
「ここに映っているのは、私の子の父親で、私の夫だった人」
「これはあなたの最初の被害者。あなたはサッカー選手のジョンを殺した!」

それはサッカーチームとしてみんながひとつにまとまっていたとき――作中では冒頭で撮影した写真でした。

一幕最初の方で撮った写真についての歌があります。
メアリー筆頭に女性陣たちが歌う、「写真の中の少年たち」。
パンフレットの解説文を読むと、こちらは初演のときにはなかった曲。
しかもバージョンによっては「The Boys in the Photograph」と作品タイトルも改題されているようです。
この歌があるからこそ、「写真」という存在が際立ちました。
その写真を眺めながら、ジョンは立ち止まり悩んだのでしょう。

間違いなくジョンが主役ではありますが、この舞台は群像劇でもあるのでは、と思います。
同世代の若者たちが主体なので、それも当たり前なのかもしれません。
同じカトリックの人たちであっても、理想とするものが違うし、行動も違います。
特に、IRAの一員として行動するトーマスが、「お前が裏切り者だ」と告発されるシーンでの彼のセリフがずっしりと重くのしかかります。
「俺たちはあいつらを勝たせないために戦っている。奴らも同じだ」
「戦いを次世代に引き継ぐことができたら、それが勝利だ」

憎しみの始まりはもはや誰にもわからずに、こうやってずっと受け継がれてきたのが差別問題の恐ろしさなのではないか。
ジョンはトーマスに銃を向けます。
彼は刑務所で洗脳され、アイルランドの独立のために戦おうとしています。
このジョンが青くていいんですよね。
トーマス役の東啓介くん、テニミュの千歳役しか寡聞にして知らないのですが、当時から歌は上手い印象でした。
が、こんなにも貫禄がある歌声とは思わなかった。
小瀧さんの歌声が、悪い意味じゃなく軽いので、ふたりのデュエットだと青さと若さが際立っていてよかった。
いや、とんすけも30歳前なんですけどね!? 
小瀧さんとあんまり変わらないんだけどね!?

ジョンはトーマスに銃を向けます。
ただし引き金を引くことができません。
「俺は今のお前なら殺せる」
「でも、昔のお前を殺せない」

このセリフも、メアリーに写真を渡されたからこそだと思います。
過去のトーマス、そして過去の自分を殺したくない。
その気持ちで、ジョンは踏みとどまったと思いたいです。

トーマスは「俺は次の誕生日を生きて迎えられないだろう」「明日死ぬかもしれない」と言います。
もしかして彼は、ジョンに殺されたかったのかもしれないな、とぼんやり思いました。

ラストで家に戻り、息子と初対面を遂げたジョンは、写真を眺めて思いとどまった結果なのだと信じています。
手を汚したとしたら、あんな風に子どもを抱きしめられる男じゃないと思うんですよね、ジョン。

幸せな光景を見ていて涙が出るのは、年を取った証拠ですかね。
悲しいシーンでも当たり前のように涙が出るのですが、わかりやすい泣きのシーンだけじゃなくて、勝手に想像して泣くことが多い気がします。たぶん会場で一番泣いていた自信があります。
2階席でしたが、涙で滲んで何も見えない瞬間ありましたし、肩震えて泣いてましたからね。

泣きすぎて、スタンディングオベーションに参加する間もなかったですね。
よかったから立ち上がろうかな? と思ったんですけど。

昔、観劇しまくっていた時期はそんなことなかったんだけど、気づいたらなんでもかんでもスタオベする風潮に嫌気がさしていて、「そんなでもねぇな」と思ったら頑として立たない人間です。
好きな役者がいて、前の席の人間が立ったせいでカテコ見えないとしても、絶対立たないです。
演者には「お疲れ様」の拍手を送っても、「こんな駄作を世に送り出しやがって」という怒りを制作サイドに主張したがる私・・・・・・。
(いや、そんな舞台今までたくさん見たわけじゃないけど)
(でもパッと思い出せるだけで確実に二本は「くそが!!」っていう舞台見たことあるもん)
スタオベってそんな安いもんじゃねぇだろ!
初日や千秋楽くらいしかスタオベ見たことなかったぞ。

まぁ、観劇も最近は全然していなかったので、観客にとってはその公演が唯一の観劇機会だし、感動したなら素直に立ち上がってもいいと思うのですよ。
今回は私も、泣いてどうにもならなくて反射神経鈍ってて立てなかっただけで、立てるもんなら立ちたかったわ。
けど、周りが立ってるからなんとなく立つのだけはやめたいんだよね。っていう、元若手俳優オタクの主張でした。

この時代に「ザ・ビューティフル・ゲーム」――強く儚く、そして美しい人生に出会えたことに感謝します。

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