恋愛詐欺師は愛を知らない(11)

スポンサーリンク
服 BL

<<はじめから読む!

10話

 薫が不細工なぬいぐるみを手に入れたのは、遼佑とのデートを続けていた、四月のことだった。

 デート費用は静持ちとはいえ、彼女もまだ学生の身だ。あまり世話にはなりたくない。ただでさえ、遼佑の身辺調査で、大金をはたいている。

 金を使わせようとする遼佑と、なるべく金のかからないデートをしようとする薫の間では、静かな攻防戦が毎回繰り広げられていた。

 遼佑は表参道など、洒落たブランドショップの並んでいる界隈に行きたがったが、薫はもっとチープに、渋谷・原宿といった、若者が遊ぶ界隈を指定した。

 大抵の場合、薫が勝利した。庶民の暮らしに興味と憧れを抱いているのだ、と目を輝かせてみせれば、遼佑は折れた。

 薫が「行ってみたいです」と言った、カラオケやファストフード店などでは、遼佑も渋々ながら財布を出す。

 そんな場所ですら、「財布を忘れた」「金が足りない」と言って女に奢ってもらうのは、さすがに男のプライドが許さないのだろう。

 その日も渋谷のカラオケボックスで、遼佑の微妙な歌声を堪能した。音程は合っているのだが、抑揚がない。本人はノリノリだが、薫は苦笑しつつタンバリンを叩くのみである。

 エレベーターに乗って一階に降りると、ゲームセンターになっている。そういえば最近、立ち寄っていないなぁ、と思いながら眺めていた。

 さすがにお嬢様が、野蛮な格闘ゲームに興味を示すわけにもいかず、薫はカラフルなクレーンゲームを見た。

 ぬいぐるみ系はあっても仕方がないから、もっぱら普段挑戦するのは、巨大な駄菓子の景品のものだ。コンビニでは売っていないから、見ているだけでも楽しい。

 そんなことを考えながら眺めていただけだったのだが、遼佑が動いた。

「欲しい? 取ってあげるよ!」

 薫が返事をしていないのに、勝手に彼はぬいぐるみのクレーンゲームに百円玉を投入し始めた。いまだに何もわかっていないのか、と薫は嘆息する。

 すべての女がぬいぐるみが好きなわけではない。また、クレーンゲームは自分でチャレンジしてこそだ、という女もいる。そういうことを、遼佑は想像できない。

「あれ? ……あれっ?」

 しかも自信満々でコインを入れたのに、下手だ。更に彼はコインを追加したが、吸い込まれるだけに終わった。ムキになる遼佑を、とうとう薫は見かねて、「貸して」と前に出た。

「え、静ちゃ……」

「遼佑さんよりも、私の方が上手ですよ。きっと」

 遼佑のプレイを見て、アームの強さはだいたいわかった。この強度では、遼佑がやろうとしたように、ぬいぐるみを持ち上げて落とすのは至難の業だ。なので、アームでぬいぐるみを転がして、穴に落とすしかない。

 ラストのワンプレイで、薫はようやくぬいぐるみを入手することに成功した。

「やった!」

 あがったテンションもそのままに、薫は遼佑とハイタッチをした。やってしまってから、はしたなかったかもしれない、と汗をかいたが、遼佑は気にした風もなく、

「すげぇ!」

 を連発した。

「どうやって取るの? 教えてよ!」

 と、屈託なく笑う。面白くなって、薫は二人で、今度は巨大駄菓子のクレーンに挑戦した。

12話

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました