二週間の恋人(19)

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18話

 週末の口論――実際には、要が一方的に喚いただけだが――を経て、俊平の反応は顕著だった。まず、数学準備室に必要以上に近寄らなくなった。いないことに気がついて、要が実習生たちの臨時職員室をこっそり覗くと、文系の実習生たちと仲良く談笑しながら、作業を進めていた。こちらには気づかなかった。

 要はそっとその場を離れた。これが健全な姿なのだと、自分に言い聞かせる。

 担当教員と実習生がべったりなんて、おかしなことなのだ。教員にとっては実習生は負担でしかないし、実習生にとって担当の教員は、あれこれ雑用を命じてくる、うるさい存在でしかない。

 実習終了まで、ラスト一週間。ようやく一人で息をつく時間が戻ってきたというのに、どうにも要は、息苦しさを感じていた。

 質問のために何度か俊平は数学準備室を訪れたが、用事が終わるとすぐに出て行ってしまう。一度、要は引き留めようとして「コーヒーでも飲むか?」と言ったが、俊平は首を横に振った。

「明後日の研究発表の準備で、忙しいので」

 そんな風に断られては、要には何も言えない。

 そして水曜日、俊平の研究発表授業が行われた。要の他に、手の空いている数学科の教員や、俊平の元担任、元々数学担当だったからと、北見校長まで見学に来た。

 さすがに緊張の面持ちを隠せない俊平に、要は声をかけようとしたが、それも憚られた。逆切れした要に、もうすでに教師としての威厳はなく、彼はアドバイスを聞き入れないかもしれない。

 結局要が何も言えないままに、研究発表は行われた。俊平は一度、大きく深呼吸をした後は、堂々と授業をやり切った。これなら、明日行われる講評会も、特に問題なく終わるだろう。

 俊平も安堵した表情を浮かべているが、要もまた、ほっとしていた。校長に声をかけられ、俊平は会釈している。

 廊下で肩の力を抜いた俊平の背を、要は一瞬躊躇したものの、叩いた。振り返った俊平は、目を見開いた。そんな顔をしないでほしい。気まずいとはいえ、実習期間中は、担当教員と実習生の関係なのだから。要はぎこちなく笑みながら、「お疲れ様」と、ただそれだけ、声をかけた。

 そのまま職員室に戻ろうとしたが、俊平の「待ってください」という声に、意識を引っ張られた。

「先生、今日の放課後、時間はありますか?」

 要をじっと見つめる俊平の目は、見覚えのある熱を孕んでいた。同じ道を行く先輩に対するものではなく、恋しく想う相手へ向ける視線に、要は息を呑む。

「最後だから」

 実習期間が終わる。その前に、今日で俊平と要は、かりそめの恋人期間を終了させる。明確に何時何分に解消すると取り決めたわけではないから、今この瞬間も、要は俊平の恋人なのだ。決して好きにならないと、心に決めていたとしても。

「……最後だぞ」

 そっと囁くように告げた要に、俊平は微笑み、頷いた。

20話

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