<<はじめから読む!
<18話
三十分の仮眠でだいぶすっきりした香貴を連れての買い付けは、まずまずの結果であった。
町の花屋には、いつもの花プラスアルファがちょうどいい。今の時期だとチューリップが盛りだ。赤、白、黄色にピンクといった、誰もがイメージする色の他に、海外から珍しい種類があれば少しだけ買う。週に一度は切り花を購入するような常連客は、こういうあまり見たことのない花が好きだ。
仏壇の花用には、菊だけじゃなく、華美にならない程度に季節の花を入れる。枝物もいい。春なら桃や桜、正月なら赤い実をつけた南天。花を飾る習慣のない人でも、仏壇には飾る。そこで季節の移ろいを感じてもらいたくて、やっていることだ。
店に戻ると、ちょうど時間通りに母が店の清掃を終え、外に出てくる。
「ただいま」
開店準備は、時間との勝負だ。花はナマモノ中のナマモノ。冷凍するわけにはいかない。車から順番に出して、処理をする。もちろん、強い体の植物ばかりではない。少し力を入れただけで折れたり潰れたりして、売り物にならなくなる。
素人の香貴には、荷下げを手伝ってもらう。コンテナが店先に下ろされるやいなや、種類ごとに水揚げから開始する。
「湯揚げはする?」
「もういいんじゃない? だいぶあったかくなってきたし……」
寒い時期には、人間と一緒で、植物も固く、水を吸い上げる力が弱まるため、沸騰した湯の中に一分間、茎の先端をつける。そうすることによって、水の通り道の空気が抜ける。
「枝物は香貴と一緒にやるわ」
「よろしくー」
小さな店だ。長年花屋を営んできた母に任せておいても大丈夫だろう。今日は根を焼く(そうすると、焦げた部分がフィルター状になる)必要のある花はなさそうだし。
「香貴。俺らこっち」
「はい!」
目まぐるしく動く藤正親子の邪魔にならないように、隅で小さくなっていた香貴を呼ぶと、仕事をさせてもらえるのだと喜んでついてくる。たまに尻尾の幻覚が見えるときがあって、涼は目を擦った。
>20話
コメント