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<28話
一日目の土曜日は、校内の生徒しかいない。そこまで盛り上がるようなものでもなく、仲間内でやりとりした各模擬店の食券を使って飲み食いをしたり、自分の当番のときは、「いらっしゃいませー」と声を張り上げてみたりした。
当番の時間は風子に合わせていたが、私はひとりでフラフラした。周りを歩く生徒たちはみんな、二人か三人でまとまっていて、楽しそうに笑い声をあげている。
風子に可哀想だと思われているのが、怖い。ナチュラルに見下すような一言をぶつけられそうで、自分から話に行くことができないまま、一日目は終わった。
しかし、二日目はそうはいかない。哲宏を出迎えて、案内してやらなきゃいけない。風子から、と渡したチケットなんだから、私ひとりでは、辻褄が合わない。
『着いた。入り口』
味も素っ気もないメッセージを受け取って、私は風子のクラスへと向かった。
哲宏の来校時間を指定したのは、私だ。ちょうど、彼女の当番時間が終わるのを見計らって設定した。
おそろいのクラスTシャツを着て、風子は笑っていた。縁日ということもあり、親子連れの来訪が多い。しゃがんで目線を合わせて、割り箸でできたゴムでっぽうを渡している。使い方がわからない子には、実演してみせている。
自分の世話もまともにできなかった風子が、小さい子の面倒を見ている。成長に感動するよりも、私の目は粗を探す。
風子の傍には必ず他の生徒がいて、説明が足りないところや、券を受け取り忘れたりしたのをフォローしていた。
結局、ひとりじゃ何もできないということに、安堵すらした。まだ、風子は私の助けがなければ生きていけないのだ、と。
「フーコ。哲宏来たって」
風子は時計を確認して、近くにいた同級生の顔を見た。
身振り手振りで「いってらっしゃい」と送り出されて、彼女は私の元へやってくる。眉毛を下げて、情けない顔をしている。もじもじしながら、風子は「あのね」と、切り出した。
「あたしも行かなきゃ、ダメかなぁ?」
「は?」
曰く、クラスメイトがひとり、部活の方のトラブルで次の時間帯の当番に入ることができない。縁日は大盛況で、ひとり足りないだけでも大変だから、そのまま手伝いたい、とのこと。
私は風子の手首を掴んだ。
「何言ってんの。招待した相手のことは、責任もって対応しなきゃダメだよ」
「でも、ののちゃんがいれば……」
「フーコ!」
鋭く名を呼ぶと、しおしおと肩を落として、風子はおとなしくついてくる。
それでいいのだ。
彼女の行動に満足して私は頷き、手を繋いだまま、人の間を縫って歩く。
「ねぇ、ののちゃん。家族はいいの?」
「いいのいいの。それよりフーコと哲宏の方が大事よ」
昨日は一日中、単独行動をしていた。何にも面白いことはなかった。展示を見ても、ステージを見ても、なんだか色褪せていた。
けれど、今日はひとりじゃない。
見て! 私の親友! 見て! 私の幼馴染み!
すれ違う人みんなに見せびらかしたくなるような気持ちでいっぱいだった。
何を食べようか、どこへ行こうか。
上の空の風子に、私は一生懸命に話しかけた。
そして辿り着いた、生徒玄関。待ち合わせの人の群れの中に突っ込んでいく。哲宏はあんまり背が高くないから、見つけるのに苦労するかもしれない。
キョロキョロと辺りを見回していると、私よりも先に、風子が「あっ!」と、大きく叫んだ。
彼女は私の手を振りほどく。あまりにも勢いがよかったものだから、私の腕は一度大きく揺れた。再び風子に伸ばしたときには、もう届かない。
走っていく風子。その先にいるのは。
いるのは。
>30話
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