白金の花嫁は将軍の希望の花【18】

スポンサーリンク
BL

<<はじめから読む!

【17】

 以降、何度もジョシュアはレイナールの部屋を訪れ、話し合いをしようとしたけれど、応じる気になれなかった。アルバートが来たときには、さすがに扉を開けたけれど、ただそれだけ。彼の話を聞いても、聞き入れようとは一切せず、口を閉ざしていた。

 無礼な態度を取ったことを謝りたい。その気持ちはあれど、自分の命を投げだそうとするジョシュアのことが許せず、また、彼がなかなか屋敷に戻ってこなくなってしまったことで、ますます謝ることができなくなっていた。

 冬は社交の季節で、主不在のグェイン家のタウンハウスにも、招待状がひっきりなしにやってくる。レイナールも目を通すようにはしているが、ジョシュアのパートナーとして以外、出席するつもりはないから、放置気味になっていた。

 今日もカールが手紙をあれこれと選別した状態で、レイナールとアルバートに手渡してきた。自分だけに来たものはほとんどなく、ヴァンからの近況報告くらいのものであった。ジョシュア宛のものは、一度アルバートが目を通してから、レイナールにも見せてくれるのが常であった。

 アルバートの手元には、自分のところの三倍ほど手紙があり、持ち切れなくなった彼の手から何通かこぼれ落ちた。素早く拾い上げようとしたレイナールを、アルバートは「レイ!」と、制止する。しかし、レイナールの行動の方が、一瞬早かった。

 拾った手紙の中に、王家の紋章の封蝋が見えた。それだけなら、そのままアルバートに渡すのだが、宛名には、レイナールの名前しかなかった。

 ボルカノ王家から自分だけに来た手紙を、カールはなぜ、アルバートに渡したのか。

 レイナールはカールとアルバートが止めるのも聞かず、手紙の中を読んだ。

 そこに書かれていたのは、おぞましいことばかりだった。

 ジョシュアはどうせ、帝国で無駄死にをするのだから、早いうちに王宮に来て、相手を務めろ。いい加減に返事を寄越せ。お前はもともと、自分のものだ。

 要約すると、そんな感じだった。

 手紙の内容から、レイナールはこれまでも似たような手紙が国王から届いていたのだということを察した。そして、自分の心を守るため、皆が気を利かせて手紙が来たことすら伏せていたのだということも。

 そしてここに来て、初めて気がついた。

 ジョシュアが開戦のための使者に選ばれたのは、国王が彼を亡き者にして、レイナールを手中に収めようと画策した結果だ。おそらく、本当に戦争で帝国の領土をぶんどろうというつもりはない。将軍の首ひとつで収めてもらう算段を、宰相が考えているだろう。そんな計画に乗る人間も愚かで、レイナールは呆れと怒りを覚えると同時に、再びひどい絶望が襲いかかってくる感じがした。

 白金の王族は、他国に縁づくと、その国に不幸をもたらす。

 ジョシュアは迷信だと言い切ったが、現在彼を困らせているのは、紛れもなく自分の存在なのだ。

 細かく震え出す身体を、レイナールは制御することができない。手紙を取り落とし、拾う気になれない。

「私のせい、です」

 肩で大きく息をする。そうしないと、言葉ではなく嗚咽しか出てこなくなりそうだった。

 大切な孫息子の命を脅かしている元凶であることを、目の前のアルバートに謝罪しなければならないのだから、泣いてばかりはいられない。

「も、申し訳、ありませ……ん」

 それでもやはり、最後には一粒涙が落ちた。一度泣いてしまえば、後から後から、窓を濡らす雨のように流れていく。

 レイナールの身体を、アルバートは抱き締めた。

 決してレイが悪いのではない、と。すべてはあの愚か者の王のせいなのだ、と。

 レイナールの心を慰める言葉ばかりを囁いてくれる。本当のところは、どう思っているのかわからない。

「わしだって、ジョシュアのことを殺されたくはない。あれも、レイのことを置いて逝くことは決してしたくないと思っている。だから、動いているのだ」

 いつだって威風堂々としたアルバートの声が、最後には小さくなった。百戦錬磨の軍人がふたりで頭を突き合わせて知恵を出し合っても、答えは芳しくないということが、レイナールにもわかった。

「お祖父様……私は、どうしたらよいのでしょう」

 少し身体を離したアルバートは、レイナールの顔をじっと見つめ、涙を指先で払い、本当の孫にするように、額に口づけた。

「ただ傍に。ジョシュアの傍で、支えてやってくれ。レイナール」

 そのときが来るまで。

 言外に匂わされた意味に、レイナールは気づいていた。きっと、春を一緒に迎えることはないのだろう。

 果たして本当に、傍らに寄り添っているだけでいいのだろうか。

 自分には、死地に赴かねばならない彼に、いったい何ができるのだろう。

 レイナールの悩みをよそに、別れのときは、すぐそこまで迫っていた。

【19】

ランキング参加中!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村 小説ブログ 小説家志望へ
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説家志望へ



コメント

タイトルとURLをコピーしました