薔薇をならべて(21)

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20話

 開店してからも、かき入れ時のイベント前でもなければ、混雑する店ではない。そろそろ母の日が近いため、注文は入るものの、繁忙期はこれからだ。

 母は店を訪れた友人と喋りながら作業をしていた。手元を見ずとも、今日の仏花を手早く包む。完璧なバランスである。

 一時間経って、だいたい今日の客入りも予測ができたので、母に後のことは頼み、とある依頼に向かう。

 母屋に戻ると、案の定、居間で香貴は眠っていた。揺すっても起きないので、思い切り彼の上に乗る。

「ぐっ」

 細身だし、特別なトレーニングはしていないが、花屋は力仕事だ。成人男性の平均体重はあるし、筋肉は重い。香貴は呻き、床を叩いてギブアップする。

 そんな彼を再び車に乗せ、向かうは例の女性の家だ。

「涼ちゃん。遅いじゃない」

 日焼け防止のための帽子と首にタオル、長袖のシャツにアームカバーは、農家のばあちゃんだが、これから作業をする庭は、イングリッシュガーデンさながらである。自分でバラを育てたい香貴には、参考になるだろう。思ったとおり、彼は目を輝かせている。

 これだけの広さとなれば、本当は造園業者に依頼して、庭師を派遣してもらうのがベターだが、この家はもうずっと、フラワーショップふじまさと懇意にしてくれている。父もある程度のわがままは聞いていた。上客はひいきするものである。

 今日の依頼は、ご自慢のバラの花を長く楽しむための作業の手伝いである。老婦人は小柄なので、どうしても木の上の方は見落としがちだ。

「開花調節?」

「そ」

 初夏に向けて、バラの株は各枝に蕾をつけている。元気な株はもとより、弱った株の花をそのまま咲かせると、死に近づき、秋のシーズンには花を楽しめなくなる。蕾を取ってしまえば、その分のエネルギーで葉が青々と生い茂り、株に元気が戻ってくる。

 旺盛に蕾をつけた株は、二割くらい摘み取る。その後再び蕾ができるので、開花時期が少しずつずれ、長く花を楽しむことができるのだ。

「それは絶対に、必要なこと?」

 切り花に関しては諦めがつき、茎を切ったり叩いたりできるようになった香貴だが、庭に根づいたバラに手を加えることには、やはり難色を示した。

 せっかくつけた蕾を、自分が楽しみたいからって減らすのは、ずいぶんと勝手じゃないか。

 口にはしなかったが、目がそう主張していた。

 涼は指先で実際に柔らかい蕾をむしり取る。硬い枝ごと取り去るには、剪定バサミを使う。

「必要だよ。バラのためには。なあ、ばあちゃん?」

 彼女は近所でも有名なバラの庭園の持ち主だ。所有しているだけではなく、しっかりと管理している。

 種や苗、園芸用品を店の片隅で販売しているだけの自分よりも、この庭を美しく保つことで余生を楽しんでいる人の体験談の方が、よほど胸を打つに違いない。そう思って、手伝いを頼まれたときに、逆に素人を連れていってもいいか打診した。快く受け入れてくれて、助かった。

 下の方の蕾を摘んでいた彼女は、涼に呼ばれてよっこいしょ、と体を起こした。ゆっくりとこちらに向かってくる。

「蕾を取ったり、枝を切るのが可哀想だっていうのかい、この子は?」

 上から下まで香貴を観察するも、彼の正体には気がつかない。寝起きよりはずいぶんマシになったが、それでももっさりした姿には、芸能人のオーラはない。あれだけ「あの子を見習え」と涼には言ったくせに。

22話

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