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<21話
すっきりとした目覚めを迎えるのは、いつぶりだろうか。
定期的に供給される女たちを抱いて、腹の底が冷えるような孤独を紛らわせていたが、ベリルを連れてきてからは、とんとご無沙汰であった。自慰で吐精するのもむなしく、手が伸びることはなかった。
しばらくぼんやりと眠りの世界との狭間に浸っていたシルヴェステルだが、真横から聞こえた小さな呻き声に、正気を取り戻した。
しまった。やってしまった。
口づけをしたその瞬間から、理性を飛ばした。記憶はうっすらと残っているが、ベリルの心と身体が無事かどうかまで、心を砕くことはできなかった。
「ベリル!」
ぼんやりした朝焼けの中、昨夜よりもベリルの顔は青白く見える。名前を呼んでも目を閉じたままで、シルヴェステルは慌てて彼の頬を連続で軽く叩く。
「うー……」
迷惑そうに瞼が震え、ゆっくりと開く。緑に光る目が焦点を結ぶのを見て、ようやくシルヴェステルは肩の力を抜いた。
「まだ眠い……」
唇を尖らせて、両腕で目を覆い隠すと、けだるげに寝返りを打つ。うう、と身震いしたのは、中に残されたシルヴェステルの精が漏れたせいに違いない。数え切れないほど中に放出したことは、体感でわかる。
疲労は色濃く身体に残っているが、ベリルは壊れたりしなかった。眠い眠いと訴えるのは、長時間のまぐわいのせいで、彼自身には何の瑕疵もない。健康そのものの呼吸で、うとうとしている。
「よかった……」
思わずこぼしたシルヴェステルの声に反応して、こちらに顔を向けたベリルはうっすらと開けた目を、次の瞬間にはぎょっと剥いていた。
「シルヴィ!?」
慌てた彼が指で頬に触れたことで、シルヴェステルは自分が泣いていることに気がついた。涙を流すことなど、子供のとき以来だ。拭うことすらせずに、ぽろぽろと流しっぱなしにしていると、ベリルが自分の着ていた夜着を拾い上げ、擦らずに押し当て、涙を吸い取らせた。
子供の世話に慣れた様子の彼の細い手首を掴み、引き寄せ、抱き締めた。
「お前が無事でよかった」
心臓の音が、裸の胸同士を伝わって聞こえることに、深く安堵した。一度たりとも、相手の女を殺してしまったことはないが、衰弱して危ういところだったことはある。弱い人間の身体に、シルヴェステルの本能は危険なのだ。
竜人の女ならばまだましだが、シルヴェステルは人間の女しか抱くことができなかった。
「ベリル。私は」
彼には知る権利がある。いや、知らなければならない。シルヴェステルがどうして、これほどまでに孤独を恐れ、ベリルに、自分を怖がりもせず、侮りもしない彼の無垢なる魂に執着するのか、その理由を。
>23話
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