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<45話
訳のわからないまま、日高は二人に車に乗せられた。
向かったのは、ホテルの一室だった。友威はルームサービスで軽食やドリンクをさっさとオーダーする。
その間、日高はベッドに座らされ、ぽかんとして友人の行動を見守っていた。
「要するに、この兄もお前と同じだったんだ」
最近出会ったばかりの男のことを、一切ためらうことなく「兄」と呼び、嬉しそうにしている友威は、早口である。
対照的に、早見はまだ、血の繋がった実の弟に対して、どう接していいのか悩んでいる様子であった。
あれだけ日高には甘かったのに、微妙に友威とは距離を取っている。
「俺と同じ?」
「うん。お前、翡翠湖から第二性のない世界に飛んだって言ってただろ?」
警察や病院では、「記憶がない」で通したが、さすがに親友に嘘は通じず、早見へ抱いた感情のことは伏せて、あちら側の世界のことを説明していた。
確か、友威の父親の前妻が、子どもと一緒に無理心中かなんかをして……。
思い出しながら、早見をじっと見る。
オメガの守り神たる翡翠湖神社の姫神に、日高は「アルファもオメガも関係ない世界に行きたい」と願った。
もしも、「この子がアルファもベータもオメガも関係なく暮らせるように」と祈ったのならば。
そんなことが、あるのだろうか。
「そう。母親はそのまま亡くなってしまったけど、行方不明だった赤ん坊は、お前の言う向こう側で、二十八年間、生きていたんだ」
「嘘……」
嘘なんかじゃないという証明代わりに、友威は懐から封筒を出した。中にはDNA鑑定書が入っていて、黒崎父と早見の親子関係は、九十九・九パーセント保証されていた。
「ついでに俺と父親の親子関係も、保証されてます」
日高がまじまじと見つめていた鑑定書を、友威は取り上げ、しまい直した。続いて別の封筒を取り出したが、こちらは早見が「俺から言う」と主張したので、彼は兄に譲る。
「こちらの世界に来て、日高を探すために探偵を雇ったら、うっかりこの弟と名乗る男に、先に見つかってしまったんだ」
友威の脅威的な人脈ならば、ありうる話だが、まあ、ひどい言われようである。
「そうしたら、こいつは俺の顔を見て、ゲラゲラ笑った。若い頃の親父そっくり、と」
そのときのことを思い出したのだろう。はっきりと眉根を寄せて、早見は友威のことを指さした。言われた側の友威は、どこ吹く風でノンアルコールのドリンクを一人で呷っている。
他人の空似で済ませずに、しっかりと早見の来歴を聞き出し、DNA鑑定まで持っていった手腕は、さすがに友威である。
「そしてこれが、もうひとつの鑑定結果だ」
早見に渡されたのは、医師による診断書。個人情報の塊であるそれを、日高は恐る恐る覗き込み、そして固まった。
>47話
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