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<6話
午後九時からの映画をぼんやりと見ているウサオに対して、「見たことあるか?」と聞いてみた。小首をかしげてからウサオは、ゆっくりと首を振った。残念ながら初見であるらしい。見たことがあれば、それをきっかけにまた何か思い出すかもしれないと思ったのだが、期待外れだった。
「俺、あんまり映画は見ないタイプみたいだ」
奇遇だな、俺もだよ。俊は言わなかった。別に気が合うとか合わないとかどうでもよかった。ぼーっとしているウサオの目が次第にとろんとしてきたのを見て、まぁ疲れているよなあ、と思って「もう寝るか?」と声をかけた。
小さく頷いたウサオを見て、はたと気づく。寝るのはいのだが、「どこ」で、だ? 残念ながら三船家には客用の布団などない。ベッドも俊一人分のシングルサイズだし、万が一ダブルベッドがあったとしても、ウサギと一緒に眠るのだけは避けたかった。
ウサオは客なのか、そうではないのか。客ならば厚くもてなすべきだが、寝る場所をどう確保すべきか。ウサオをベッドに寝かせて自分は床か? 幸いにしてまだ十月になったばかりでそれほど寒くはないけれど、まだラグを敷いていないフローリングだから、長時間横になるには向かないかもしれない。
困っている俊を見て取ったのか、ウサオは「俺ここで寝る」とダイニングテーブルの下にもぐってしまった。
「毛布くれ」
「風邪引くぞ」
いい、とウサオは首を横に振った。風邪を引かれたら困るのはこちらの方なのだが。不用意に最寄りの診療所に連れていくわけにはいかず、笹川や高山に連絡をして病院い連れていってもらうしかない。そのまま任せきりにすることもできないだろうから、結局大学の講義どころの騒ぎではなくなる。
そんな俊の心境を知ってか知らずか、ウサオはうとうとと半眼になっている。溜息をついて、俊は毛布を取りに行った。
>8話
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