孤独な竜はとこしえの緑に守られる(34)

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33話

 マリアンヌの手引きによって連れてこられたのは、やはり娼館であった。彼女の生きる世界は狭い。市場に買い物にだってたまに出かけるが、日の当たる場所では生きられないと知っているから、すぐに路地裏の花街へと戻ってきてしまう。

「うちの店と違って、ここは高級店だから。旦那はお貴族様なんでしょ。そんなら一見さんでも、お茶することくらいは許してくれるはずよ」

 紹介料と称して幾ばくかの銀貨をむしり取り、マリアンヌはひらひらと手を振った。すがすがしいほど、金目当てである。

 カミーユが姿を見せた瞬間、高級娼館の店主は揉み手で出迎えた。高位貴族だと見抜いているのだ。酌のために娼婦を部屋に入れようとするのを留めて、カミーユはベリルと二人きりになる。

 護衛の兵士たちには口止めをして、金を渡した。彼らはその金を、身の丈に合った娼館へと落としてから城に戻る。カミーユが買収した証拠は残らない。

 ジョゼフは最後まで、一緒に話を聞くことを望んだが、最終的には「カミーユと二人にしてほしい」というベリルの願いに折れた。彼はカミーユから金を受け取らず、「下町は庭みたいなもんだ。いくらでも時間なんて潰せるさ」と嘯いて、出ていった。

 慌てたせいで喉が渇いていたのか、カミーユは出された茶を一気に呷った。香りも味も、ろくにわからないに違いない。花の香りがする茶が、もったいない。

「カミーユは、もっと一途な人だと思ってた」

 盲目的に主人を敬愛し、その妃というだけで、どこの馬の骨ともわからないベリルにさえ敬意を払うその態度を好ましいと思っていたから、娼婦を買いあさっていると知って、幻滅した。

 ベリルの非難に、「誤解です」と、カミーユの抗弁が始まる。

「私は、人を探しているだけなのです」

「その人は、娼婦なの?」

「……わかりません」

 カミーユはぽつりぽつりと途切れがちに、自分自身の生い立ちから語る。

「私は今でこそミッテラン家の跡取りとして世間に周知されていますが、元々は庶子なのです」

 庶子、すなわち愛人との間に産まれた子供だということだ。法学書の内容を思い出しながら、ベリルは「なんの問題が?」と、結論づける。

 セーラフィールの法律では、嫡出の男児に第一の相続権が与えられる。男児がいなければ、女児が女侯爵として立つことも前例がないわけではないが、娘しか産まれなかった家は、親戚の家から養子をもらい受けるか、婿を取るかのどちらかのことの方が多い。

 正妻との間に子供が得られなければ、外でつくった子供を養子として迎え、家督を相続させることはごく当たり前に行われている。正妻の心情を考えればひどい話かもしれないが、貴族や名家の人々は、家の存続が第一だということを理解しているので、大きな問題になることは少ない。

 ミッテラン侯爵家も、正妻との間にひとりの子も産まれなかったのだろう。こればかりは仕方がない話だ。誰が悪いというわけでもない。

 ふんふんと適度に相槌を打ちながら聞いていたベリルだったが、カミーユの告白に、首を傾げた。

35話

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