高嶺のガワオタ(32)

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ライト文芸

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31話

『恐れるな、サヤ。君が怖がれば怖がるほど、彼も恐慌状態に陥り、暴走する』

 飛天は静かに言う。フードを目深に被り、それでもやや心もとなかったので、突貫で作った白い仮面を身に着けている。

『でも! 私はあんな怪獣なんて……』

 普段はすることのないポニーテールの映理。衣装は結局そのままだ。さりげなく衣装チェンジを申し入れたが、映理の「サヤの活動的な性格には、この衣装ぴったりだと思います」という意見が決定打だった。

 突如として街に現れた怪獣。それと同時に、怪しい男たちにつけ狙われるようになったヒロインと、彼女の楯となる守護者の出会いの場面だった。

 男たちを退けた守護者――飛天は、大きく両腕を広げた。天使の羽をイメージするように、ゆっくりと柔らかく。それが太陽のオーダーだった。

 三日で体制を立て直した太陽は、一度撮影した物を破棄して、最初から撮り直すことに決定した。途中から守護者が飛天に成り代わるのは不自然で、凝り性の太陽が認めるレベルには到底行き着かないためだ。

 少なくなってしまったスタッフを埋めるのに、飛天は次郎にも手助けを頼んだ。彼は少し迷った様子だった。性犯罪が起きた集団に入るのは、勇気がいることだった。

 だが、次郎はすぐに太陽の熱に触れた。同じ特撮を愛する魂が共鳴したのか、すぐに意気投合して、次郎は率先して手伝ってくれた。バイト先でもやっている音響補助だけではなく、器用な手先で小道具の修繕などを一手に引き受けている。

 飛天の顔を隠す仮面も、次郎が作ってくれたものだ。最初、太陽は仮面をつけることを渋っていたが、次郎が「こっちの方がミステリアスで正体不明感が出ると思います!」と強く主張してくれたので、着用が許された。

 飛天は自分のできる全力の演技をした。目が見えないことは、演技をする上で絶対的に不利である。目は口ほどに物を言う、というのは事実であり、言葉だけなりきっても薄っぺらに聞こえてしまうのだ。

 飛天は唇や、わずかに見える眉、頬の動きで守護者の微妙な感情の動きを表現した。

 最初は胡散臭そうに飛天を見ていた特技研の連中の目が、次第に変わっていく。きちんと演技を勉強した人間を撮るのは、太陽たちにとって初めてだったのだ。

 急ピッチで撮影と編集は進められていく。次郎が、「僕の母校で上映会をしてみないか」と話を持ってきてからは、俄然太陽のやる気が違った。

 次郎の通っていた専門学校の学校祭で、もともと上映予定だったオリジナルアニメが完成しそうにない。そこで代わりに映画を上映できそうだというのだ。

 大学の学校祭合わせだったので、十一月半ばまでに完成すればよかったものを、十月末までに短縮しなければならない。飛天たちキャストも大変だったが、太陽たちの忙しさは、その比ではなかった。

 ようやく映画が完成したのは、ギリギリの時期だった。内部の人間だけで試写を執り行ったが、ほとんどの部員たちが泣いていた。

33話

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