高嶺のガワオタ(5)

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ライト文芸

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4話

 頭を隠してしまえば、視界はとても狭かった。

「今日はイベントが分散してるから、いつもより少ないと思うよ」

 などと次郎は言っていたが、飛天の目に入るのは、人、人、人の群れである。子供たちの歓声を受けて、飛天はポーズを決めて応える。

 手を振り、愛想を振りまくのはお手の物だった。客層と、彼らが見ているのは自分自身ではなく、なりきっているヒーローという大きな違いはあるにせよ。

 一緒になって光線技のポーズをしてくれる子供相手には、やりやすい。次郎指導による各種技をローテーションでびしっと決めればいいだけだ。

 大変なのは、訳も分からず連れてこられました、という風情の子供。幼稚園にすら入っていないだろう彼ら相手には、中腰姿勢になることも多い。それでいて格好良さは醸し出さなければならないので、なるほどこれは肉体労働だ。

 しばらくやってみて慣れたところで、飛天は改めて、会場にやってきた人々を見回した。

 家族連れが一番比率としては高いが、列の最後の方は、大人だけのグループや個人が多くなる。

 特撮オタク。飛天の嫌いな人種。

 彼らは飛天のイメージとは違った。特撮に限らず、オタクという連中は我が強く、自分が特権を享受しようと前へ前へ出張ってくるものだと思っていた。少なくとも、飛天が関わってきたのはそんなオタクだった。

 だが、現場にやってきた特撮オタクたちは、子供たちに先に並ばせ、自分は列の最後尾に回る。ヒーローは子供たちのものだということを、わきまえているのだ。

 素直に感心した飛天は、大人相手の撮影でもしっかりこなした。思ったよりも、女性客が多い。よくは見えないが、飛天と同年代の女子もいる。彼女たちがぴったりと密着してくるのは、さすがに困ったが、顔には出ない。当たり前だ。マスクで隠されている。

 午前の撮影会は、問題なく終わった。事件が起きたのは、午後の回のことだった。

 列から外れたところで何かもめていることに気づいたのは、子供がぐずってなかなか撮影に進めない家族にあたったときだった。

 飛天も必死であやすが、母親に抱かれた赤ん坊は、何が気に入らないのか、身体を仰け反らせて泣きわめく。

 まぁ確かに、飛天が演じているこのヒーローは、目つきがあまりよろしくない。それにこのチャラい感じ。てっきり悪役かと思った。

 そう零した飛天に、次郎は興奮気味の早口で、このキャラクターの来歴を教えてくれた。

『セブンの息子で、父親の顔を知らずに育ったせいか、ヤンキーみたいなところがあって闇落ち寸前だったんだよ。今は父親のことを誇りに思って、正義の味方をしてるんだけどね。とっても人気があるんだ』

 飛天の記憶が正しければ、このヒーローシリーズは宇宙人じゃなかったか。父親の顔を知らないって、昼ドラもびっくりの展開だな……。

 飛天が身に纏うヒーローが怖い顔をしているのは、そういう生い立ちが影響しているのだろうと無理矢理納得をしたのだった。

 結局赤ん坊は泣き止まず、飛天はあやすのを諦めて遠くを見つめた。そのとき初めて、揉め事が起きていることに気がついた。

6話

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