断頭台の友よ(31)

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30話

「イヴォンヌ嬢のお子さんは、どうなさったんですか?」

 聞き方はいろいろあった。だが、あえて衝撃的な台詞を吐き出したのは、バロー夫妻の反応を見るためであった。不意を突かれると、人は取り繕うことができない。彼らが動揺しているのは、簡単に見てとれた。

「な、なにを言っているんだね、君は!」

 ゴーチエはなんとか正気を取り戻し、震える声で無礼なこと言うなと主張するが、カペラは正直であった。彼女は青い顔をして、下を向いている。ぶるりと身体を震わせるその様は、何よりも雄弁である。クレマンの抱いた疑惑は、ここに至り、確信に変わる。証拠はこの絵の中に隠されているのだとつきつける。

「イヴォンヌ嬢の腹は、このようにひどく肉割れしていました。カペラ夫人、あなたならこれがなんなのか、わかりますよね?」

 ブリジットの腹にはない。彼女と同程度の痩身であるカペラの腹には、くっきりと残っているだろう。ゴーチエは妻の顔を窺う。男はあまり、気にしないものだ。妻の裸体を見るのは、夜の暗い寝室でだけ。新婚の頃にはなかった皹には気づかない。

「彼女の腹にあったのは、妊娠線です」

 妊娠し、腹が大きくなるのに対して皮膚がついていかなくなりできる。無論、妊娠だけではなく、急激に太った際にも同じ現象が起きるのだが、イヴォンヌが肥満していたとはついぞ聞かない。薬で堕胎することができるのは、腹が小さいときだけだ。肉割れし始めるのは、妊娠中期以降。妊娠をなかったことにするのは、すでに不可能である。

「子供の父親は、誰ですか?」

 少しだけ、友人に疑いを抱きながら問いかける。若い娘に婚前に手を出すような不埒な男ではないと信じているのだが、かといってイヴォンヌの不貞を言い切ることもできない。クレマンは、自分の心の弱さが表れないように、腹筋に力を入れた状態で、ゴーチエとカペラの顔をゆっくりと見つめた。睨みつける、に近いかもしれない。

 カペラはワッと泣き出した。それが答えだった。ゴーチエは妻の肩を抱き、観念したように吐き出す。

32話

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