<<はじめから読む!
<51話
「そこで私は、新たな処刑具を提案させていただきたいのです」
何の合図を送ったわけでもないのに、王宮勤めの侍従が紙の束を持ってきたことに驚く。どこかから見られているのだろうか。思わずキョロキョロとあちこちに目を走らせるクレマンに、「ムッシュウ?」と、ギヨタンは何の疑問も持たずに声をかけてくる。
クレマンは咳払いをして、紙束を手にする。スケッチの技量はオズヴァルトに及ぶべくもないが、定規を使って描かれた設計図に、目を奪われた。
「文献を漁っていたら、海の向こうの国で、数百年前に使われていた器具がありまして。それを改良してみたのです」
紐で吊られた刃を落とす。頭を固定しておけば、間違いなく首は切り落とされるという、なんとも単純な仕組みである。代々のサンソン家当主、そして自分自身、なぜ思いつかなかったのかとクレマンは悔しくなった。
「いかがでしょうか? 処刑人としての知見をお貸しいただきたい」
クレマンは、じっと設計図を見つめた。資料として図解されている大昔の道具は刃がまっすぐで、ギヨタンが新たに引いた設計図のものの刃は、首の形に沿うように丸くなっている。自分がこれを使って死刑を執行するときのことを想像してみて、クレマンは鉛筆を手にした。
直す箇所はひとつ。刃を斜めに。首の太さは千差万別、太かったり細かったりだ。この型に合わない犯罪者など、たくさんいた。百発百中の成功率を達成するためには、丸刃では無理だということはわかった。
ギヨタンはクレマンの差し出した紙を見て、ふむふむと相槌をうち、考えている。彼の首は太く、どころか顎の肉がでっぷりと邪魔をして、ないに等しい。彼をこの器具で処刑するとなると、まず間違いなく失敗するだろう。
クレマンの視線を敏感に感じ取ったのか、ギヨタンは「なるほど」と、納得して頷いた。
「では、刃の形状はこちらで試作できるかどうか、お願いしてみましょう」
試作くらいは構わないし、ギヨタンが個人でパトロンを見つけているのなら、口を出すことではないが、実際に使用されるかどうかはわからない。クレマンに選択権はない。さらさらと手元の紙に書きつけると、クレマンは遠い目をした。
「高等法院の役人さんに誠心誠意お願いすれば、どうにかなるのではないでしょうか……」
クレマンは首を傾げるにとどめた。役所の仕事というのは常にたらい回しになり、時間がかかるものだ。今回こうして、ギヨタンとクレマンの面会の場を設けてくれたことだって、奇跡に近い。
ただ、高等法院の建物内ではなく、王宮内の一室を借り受けることができたことを考えると、ギヨタンの願いはわりとあっさり叶えられるのではないだろうか。
>53話
コメント