断頭台の友よ(58)

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57話

 四十か五十くらいの、恰幅のいい男だった。服の胸や腕周りの布が破れそうなほど突っ張っているのは、宗教者にしては珍しい。肥えに肥えた脂肪ではなく、鍛えられた筋肉でだ。

 貴族の三男や四男の進路として、教会はそこそこ人気だが、この男ほど体格が恵まれているのなら、普通は軍人として国に仕えることを選ぶだろう。

 軍に入るのを断念した理由は、男の頬に刻まれていた。鋭利な刃物でつけられたと思われる、派手な傷跡。左目の端にまで及んだそれによって、おそらくは弱視になっているに違いない。動きがどこか、ぎこちなかった。

「特に問題はなさそうだな」

 そっと囁いたオズヴァルトに、クレマンも頷いた。礼拝の手順は、自分の知るものと一致している。異教徒の集いではないことに、まずは安堵した。

 ただ、説教は非常にざっくばらんとしていたし、賛美歌を歌う箇所が少しだけ多かった。誤差の範囲といえる程度ではあった。クレマンの行く教会の司祭も、村人に合わせて難しいことはほとんど言わないし、子供が飽きていると感じれば、面白い昔話をすることだってある。

 司祭というのは一種の演者である。神の教えを理解させるためには、信徒の知能に合わせなければならない。ちらりと横目で窺ったオズヴァルトは驚きに目を丸くしているから、王都の教会は普通、四角四面に礼拝を執り行うのだろう。

 最後に神の体たるパンと神の血たる葡萄酒を拝領し、祈りを捧げて礼拝は終わる。普通の教会であれば、ここからは世代や性別ごとに分かれての部会があるのだが、この教会では本当に、礼拝しかしないらしい。

 人々は司祭に笑顔で挨拶をして、三々五々、自分の家に戻っていく。旬日であっても働かなければ食べていかれない人々だ。礼拝に参加するだけでも、大変なのだろう。

 残ったのは明らかに、地元の人間ではなかった。クレマンたちもそうだが、衣服が洗練されており、郊外の貧しい街には釣り合わない。誰もが下を向いており、話を聞くことができそうな人間はいなかった。

 司祭は残った人々を見回す。顔を上げていたクレマンとオズヴァルトに気がつくと、笑顔を向けてきた。傷跡が引きつるのか、柔和とはかけ離れたいかつい笑みである。ますます司祭という職が似合わない外見であると思った。騒がしい子供たちを黙らせ、神の教えを説く手腕には長けているようだが、司祭服はあまり似合わない。

 彼は二人に近づいてくると、「初めての方ですね?」と、声をかけてきた。緊張をもって、「はい」と答えるクレマンから、隣のオズヴァルトに目を移すと、まじまじと見つめた。その目立つ美貌から、男女の別なく注目されることは慣れているオズヴァルトだが、さすがに居心地が悪かったのだろう。

「なにか?」

 と尋ねた彼の言葉には、ささやかな険があった。司祭は一切気にすることなく、自分の非礼を詫びた。

59話

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