断頭台の友よ(75)

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74話

 西の孤児院で起きた殺人事件の犯人は、状況証拠から院長で間違いない。だが、それだけで逮捕ができるかというと、問題があった。

 院長によって少女が斡旋された店の客は、ほとんどが貴族であろう。幼い少女を娼婦に仕立て上げる特殊嗜好向けの娼館は、すべて極秘裏に運営されており、紹介制だ。いくら金があったところで、伝手のない商人では門前払いされる。 

 顧客の貴族たちが、証拠不十分を理由に院長を釈放させる可能性が高い。罪を裁かれることなく、再び孤児院の院長職に戻り、少女の出荷に勤しむことになるだろう。

 確たる物的証拠、あるいは現行犯で取り押さえる必要があった。

「クリスティンがクレアに非常に懐きましてね」

 にこにこと真意がわかりづらい笑顔を浮かべ、オズヴァルトは院長に交渉を始めた。

 ぺらぺらとよく回る口だ。喋ることを禁じられたクレマンは、べったりとくっついたクリスティンの肩に触れながら思う。

 というか、いつの間にクレアという名前を与えられたのか。

 院長の私室を調べて証拠を手に入れるにしろ、現行犯で捕まえるにしろ、クリスティンを利用しなければならないのは、心苦しい。二人で危険性をわかりやすく噛み砕いて話し、彼女の判断に任せた。

 クリスティンは、応じた。アリスのためなら。そう言って。

 勇敢な少女を称えて、きゅっと抱き締めた。オズヴァルトはこれが終わったら必ず引き取って、しかるべき教育を与え、立派な淑女にしてみせると誓った。

 彼女は再び女装するはめになったクレマンのドレスをぎゅっと握り、顔を埋めている。

「今日は彼女を、クリスティンと一緒に寝かせてあげるわけにはいきませんか?」

 オズヴァルトはそこで、院長の耳元に唇を寄せた。何を言ったかはわからないが、ろくでもないことだ。院長の前では、彼は悪徳商人を演じきるつもりである。

 院長は驚いた様子であったが、オズヴァルトとにやにや笑い合っていて、もはや自分が悪人であることを隠すつもりもない。クリスティンは怯えて、クレマンのドレスの後ろに隠れている。

 了承を得たオズヴァルトは意気揚々と戻ってくると、クレマンに耳打ちする。

「二人食べ比べてみるのもいいんじゃないか、と言ってやった」

 お前な、と文句は飲み込んだ。仕方がない。今夜中に決着をつけなければならない。クリスティンを引き取る手続きが終わる前に、彼女を殺されてしまったら終わりだ。

 それに、クリスティンひとりだけ助けても意味がない。確実に部屋に忍び込み、手を出してもらわなければならない。強姦、あるいは暴行罪で捕まえてから、殺人罪についても捜査する。証拠を必ず見つけ出す。

 クレマンが扮するクレアは、現在喉の調子が悪く、声を出すことができないという設定だ。院長にとっては、都合がいいだろう。無体を働いても、相手は悲鳴のひとつも出せないのだから。

76話

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