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<80話
クレマンは、オズヴァルトとともに首を眺めにいった。
「生きていても醜い人間は、死に顔はより醜いもんだな」
ぽつりとオズヴァルトが言う。確かに、クレマンが自身の剣で屠ってきた者どもは、ほとんどがグロテスクな死に顔をさらしていた。醜い、目も当てられないと言いながらも、彼は生首から目を離さない。イヴォンヌの死に顔と比べているのかもしれない。
彼女の首は微笑みすら浮かべていた。ずっと死にたかったのだ。成就したゆえの満足感の表れであった。
「オズ。君は、死刑についてどう思う?」
ふと尋ねた言葉は、いつか親友に聞いてみようと思いつつ、きっかけがなくてしまい込んでいたものだった。オズヴァルトはいつだって、あけすけに自らのことを話してくれる。それに比べて自分は、大きな秘密を抱えている。いつかは彼に、自分の本当の姿を知ってもらいたい。そんな気持ちは、年々膨らんでいった。
あの死体を作り上げたのは、僕なのだ。
クレマンは、あまりひどい罵倒の言葉が帰ってこないように祈った。
「死刑は、この社会には必要だよ」
彼はこちらを見なかった。まっすぐに生首を見据えている。あれが、豚のような男の成れの果て。まるで夢を見ているような視線と口調に、クレマンは押し黙ったまま、彼の話を聞く。
犯罪者は、償わなければならない。ただ、彼らはやり方がわからない。その術を持たない。
「死刑執行人が誰だか知らないけれど、彼は犯罪者に対して救済を与えている。素晴らしい人だよ」
「救済だって?」
実際に処刑をしているクレマンは、そんな意識をもって職務に望んだことはなかった。驚いてオズヴァルトを見上げると、彼はこちらを見つめてにっこりと微笑む。お前のしていることはわかっているよ、と見透かすごとき瞳に、クレマンはたじろいだ。
「人々は彼のことを忌み嫌っているけれど、俺はそうは思わない。あいつみたいに卑しい身も、マノン・カルノーのように尊い身も、等しく彼は殺し、その罪から救い上げるんだ」
「オズ……」
ならば僕と代わってくれ。喉元までその言葉が出かかった。ぐっと堪える。
「死が救いになるという点では、首斬鬼も処刑人も、同じなのかもしれないね」
いいや、違う!
国からの要請で、法の下で殺す自分と、勝手に命を奪う殺人犯と、等しいわけがない!
「……なんてな。前の俺だったら、そう思っていたかもしれないけれど、イヴォンヌを殺された以上、俺は絶対に、首斬鬼を許さないよ」
そう言い切ったオズヴァルトにほっとした。クレマンは彼の肩を叩いて、もう行こうと促した。名残惜しそうに男の生首に目を凝らす彼は、瞬きをして首を横に振り、歩き出したのだった。
>82話
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