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<5話
お任せします、という言葉どおりに、祥郎は新宿の街を連れ回した。
美容院の予約から、飛鳥に似合いそうなブランドの情報収集、昼に何を食べるかというところまで、全部祥郎が決めた。
「こんなに食べられるかな……」
大きなサイズのグルメハンバーガーとフライドポテトを前に、飛鳥はやや引いていた。
短くなった前髪がどうしても気になるのか、しきりに触っている。
「大丈夫だって」
よく見てみろよ、と指で店内を示すと、飛鳥は辺りを見回して、「なるほど」と肩の力を抜いた。
SNSやメディアで話題の店は、女性客も多い。飛鳥よりも華奢な女性たちが、大きな口を開けてハンバーガーを頬張っている。
見た目よりも食べやすいのだろうと考えて、飛鳥はまず、ポテトを摘んだ。
「どうしてもきつかったら、俺が食べるから」
胸を張った祥郎に、飛鳥はクスクスと笑った。
「なに?」
「いえ。彼女にも同じこと言ってそうだなあ、と思って」
身に覚えがあったので、祥郎は思わず、愛想笑いをしてしまった。飛鳥は理解して、さらに楽しそうにしている。
「先輩は……今、彼女っているんですか?」
「え、あ、いないけど。……どうした?」
唐突に尋ねられて、反応が遅れた。
飛鳥はコーラのストローを銜えて、祥郎のことをじっと見る。買ったばかりのミントグリーンのカットソーは、ユニセックスな彼の魅力を全面に押し出している。
細いチタンフレームの眼鏡は、飛鳥の凛々しい目を隠したりしない。ひたむきな視線は、そわそわと揺れている。
「その……もし彼女さんがいるなら、俺としたのって……」
周囲を気にして、小声になる。昼間から、外でする話ではないのは、重々わかっていたが、祥郎はこの機会にきちんと話をしておかなければならないと思った。
「時任。ああいうのは、ちゃんと好きな人としろよ? っても、俺が言えた義理じゃないけどさ」
恋人でもなんでもない、まともに話したのは初めてだった飛鳥に手を出したのだ。
「でもそれは、僕がお願いしたからで……」
「だから俺も、ギリギリセーフだと思うことにしてんの。恋人もいないことだし」
もしも彼女がいたら、二重の罪悪感に苦しめられるところだった。フリーだったのは、不幸中の幸いだ。
「恋人といつかできるように、まずは一人で頑張れ。な?」
祥郎の言葉を、飛鳥は噛みしめるように聞いて、頷いた。
>7話
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