<<はじめから読む!
<5話
「恵美の家は、代々呉井家に仕えてくれている血筋なんです」
「仙川だ。円香お嬢様を学校でもお守りするために、この学校にスクールカウンセラーとして勤めている」
ハスキーボイスとともに差し出された手を握る。長く細い指は、爪まできれいに手入れされている。呉井家がどの程度の家柄なのかは不明だが、彼の洗練された様子を見るに、相当のものだと思った。
「よろしくお願いします」
逆に握り込まれ、ぎりぎりと絞めつけられる。え、痛い。マジで。シャレにならんくらい痛いんだけど!
「よろしく」
馬鹿力ときらきらしい王子様のような笑顔が釣り合わない。怖い。俺もへらへらとうすら笑いする以外に取れる手段がなくて、呉井さんが止めるまでずっと手を握ったままだった。
「そしてこっちが、日向瑞樹さん。三年生よ」
赤くなった手をさすりさすり、今度はぽっちゃり系男子と握手を交わす。手がふくふくもちもちして、ひんやりして気持ちがいい。思わずすりすりしたくなるけれど、相手は男子高校生だ。
「よろしくお願いします。日向先輩」
「よろしくね。僕のことは下の名前で呼んでくれると嬉しいな。恵美も円香ちゃんも、瑞樹って呼ぶからさ」
瑞樹先輩と円香ちゃん……じゃない、うつった。呉井さんは、いとこなのだという。
同好会のメンバーは、ここにいるので全員らしい。正確に言えば、仙川(本当は「先生」と言わなければならないのだろうが、一方的に痛めつけられたので、呼びたくない)は生徒ではないので、呉井さんと瑞樹先輩だけ。
俺? 俺は別に、入れとは言われてないし……。
「明日川くんも入部してくれて、嬉しいです」
「僕と円香ちゃんだけだったから、寂しくてさ。週一回、だいたいここでお菓子を食べながらおしゃべりするだけだから、他の部と兼部しても大丈夫だよ」
微笑むいとこコンビの中では、すでに俺の入部は決定事項だった。まあいいけど。特に入りたい部活もないし。
仙川が取り出した重箱を開け、呉井さんはお行儀よく手を合わせ、箸をつけた。お節料理以外で、重箱って使ってもいいんだな。大和撫子然とした呉井さんが、赤い塗りの箸を上品に使う。美しさのあまりに、お腹がいっぱいになりそうだった。
「それで? この同好会って、何するんですか?」
同好会の会長は、順当に三年の瑞樹先輩だろうと話を振ったが、応えたのは呉井さん。しかも彼女に似合わぬ不気味な笑みを浮かべている。凄みがあって、まるで魔女だ。目を輝かせて、俺の質問はスルーされ、代わりにとんでもない質問が投げかけられる。
「明日川くんは、どこの世界からいらっしゃったの?」
>7話
コメント