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<6話
質問の意味がわからず、瑞樹先輩に視線で助けを求めた。彼はにこにこ笑うばかりで、俺に対してなんのリアクションも起こさない。いくつめなのかわからないプリンを、コンビニの袋から取り出す。
一応仙川にも目を向けたが、彼は俺に一切の興味がなく、大切なお嬢様が怒涛のマシンガントークを繰り広げるのを、うんうん頷いて、幸せそうに見守っているだけだった。
おっとりふんわりした呉井さんが、早口になっている。この現象を、俺はよく知っている。
「どこの漫画の世界からいらしたのかしら。スポ根モノ? アイドル? ホラー? それともゲームの世界? 乙女ゲームというものがあるんですって? そこの攻略キャラクターかしら」
オタク、自分の興味のある物に対してのみ、超絶早口。俺にもある悪い癖だ。あまりの勢いに飲まれそうになる。うっかり適当な経歴を述べそうになるが、俺は今までもそしてこれからも、明日川匡以外の何者でもない。
「円香様。この男の貧弱な身体、平凡な顔立ちから推測するに、スポーツでもアイドルでもなければ、乙女ゲームの攻略キャラでもないでしょう。せいぜいが主人公の友人、あるいは噛ませ犬。もっと言えば、モブ以外にありえません」
興奮するお嬢様の肩を、仙川が失礼極まりないことを言いながら叩いて落ち着かせた。つか、本当に失礼だな! 誰がモブだ、誰が!
「……それもそうね」
納得すんのかよ、おい!
「モブならモブでも構いませんわ。異世界転移、あるいは転生をしたという事実が、私にとっては最重要事項なのです」
呉井さんは、狂的だった。クラスにいるときよりも楽しそうな表情は、ますます魅力的だ。しかし、話している内容が、一切理解できない。
俺もオタクの端くれとして、異世界転生や異世界転移する物語には、一通り触れてきている。いわゆる「なろう系」と言われる、地味で冴えない主人公が、チート能力を手に入れて他を圧倒し、現代知識で異世界を治め、さらには可愛い女の子たちのハーレムを形成する。書籍化された有名作品は、一通り目を通してきたから、彼女の言う「転移」「転生」については意味はわかる。
だが、所詮それらは夢物語だ。人間の想像力が生み出した物に過ぎない。だから、彼女が「本気で」異世界転生について捉え、話をしているように見えるのが、異様に思えた。高校二年生にもなって、本気で。
俺の防衛本能が警告する。こいつに巻き込まれちゃ、たまらない。ピンクの髪になんてしなけりゃよかった。
ちなみにピンクにしたのは、少し前にやっていたドラマが理由だった。出演していたイケメン俳優がピンク髪の高校生で人気を博し、「最強ピンク」とメディアにもてはやされているのを見た。俺はイケメンではないが、その人気にあやかろうとした。女子に「最強ピンクじゃない。面白過ぎる~」と言ってもらうことだけを楽しみにしていた。
他人の人気を借りようとした罰が、呉井円香という頭のねじが数本抜けた女子に絡まれるということなのか。
>8話
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