平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(43)

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42話

「早見、さん……」

 この世界で唯一、日高の存在を許してくれる人。

 ああ、でも、もう駄目だろう。彼の意志を無視して、襲ってしまったのだ。

 早見の顔は強ばっていた。

「何をしている!」

 怒声にびくりと肩が跳ねる。平静を装って、日高はにっこりと笑った。

 早見はよほど慌てて追ってきたようで、眼鏡をかけ忘れていたし、辺りはまだ暗い。

 遠目にいる日高の唇が震えていることに、彼は気づいていないだろう。

 あとは、声が普通に出せればいい。わざとらしく、高く大きな声を出してごまかした。

「あなたと会えて、本当によかった」

 元の世界で辛い目に遭ったのは、全部こちら側で早見と出会うためだったのではないか。

 幸せな勘違いをしてしまうほど、彼との生活は穏やかだった。

 だからこそ、ここにはいられない。

「でも、俺は、この世界では生きられない」

 早見との安らかな日々は、こちらの世界の浦園日高の犠牲の上に成り立っている。

 いくら幸せな暮らしをしていても、日高の精神は罪の意識にすり減っていく。

 そして、こちらの世界にいる以上、日高は外に出られない。石塚の反応を見れば、街を混乱に陥れると判断した早見は、間違っていない。

一生家の中で過ごすことが罰といえばそうなのかもしれないが、早見とずっと二人きりでいられることは、日高にとってはご褒美にしかならない。

「メレンゲのこと、どうかよろしくお願いします」

「日高……」

「さようなら。俺のことは、どうか忘れて」

 嘘だ。本当は忘れないで。他の誰かを抱く度に、俺のことを思い出せばいい。

 最後に一筋の涙が零れた。ああ、本当に自分は、どうしようもない卑怯者だ。ここで泣けば、早見の記憶に鮮烈に残り続けるとわかっていて、自分は。

 日高は早見に背を向けて、そのまま湖の中をざぶざぶと掻き分けて進み、潜った。

 冷たい水に涙が混ざり、徐々に温かく感じられるようになったところで、意識は水底へと沈んでいった。

44話

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