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<80話
注文が入れば、笑顔で「はい!」と請け負って、たこ焼きをひっくり返す。大阪人ではないが、我が家にはたこ焼き器があって、定期的にたこパが開かれる。誰とって? 言わずともわかれ。母親とだよ!
そんなわけで、俺のたこ焼きテクはそこそこである。呉井さんの腰巾着程度にしか思っていなかっただろうクラスメイトたちは、俺のことを少しは見直しただろう。
「マスター、次の注文入ったよ!」
「はいよ!」
でもマスターはやめろ! たこ焼きマスターとかダサすぎるだろ!
そんな感じで俺は割り当てられた時間いっぱい、たこ焼きをひっくり返しまくった。協定が存在するので、たこ焼きの屋台はうちだけ。大人気である。ここはじゃんけんが強かった実行委員を褒めるべきだ。
「ほら、明日川。お疲れさん」
「おー、サンキュ」
交代でやってきたたこ焼きマスター・その2は水のペットボトルを渡してくれた。鉄板の前にずっといるので、秋とはいえ暑くて仕方がなかった。首にかけたタオルで汗を拭いて、水を口に含んで一息つく。
これから呉井さんと柏木と待ち合わせて、体育館へ向かう。瑞樹先輩の舞台は、文化祭パンフレットを見ても、「演劇」と書いているだけで、中身についてはわからなかった。たぶん、パンフ原稿入稿の時点では、未定だったんじゃないか、これ。屋台のうちのクラスでも大変だったんだから、舞台なんてそりゃ揉めるだろう。
三年生が自分たちの集大成として創り上げた舞台だ。純粋に楽しみだったし、何よりも瑞樹先輩がわざわざチケットをくれた。そこには絶対に、何か意味がある。
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