平行線上のアルファ~迷子のオメガは運命を掴む~(21)

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20話

その日、目覚めとともに感じたのは熱さだった。

暑さではない。すっかり夏になった外気ではなく、身の内からじわじわとしみ出していくような熱さだ。

 久しく忘れていた渇きに、日高は慌てて身を起こした。水分ではなく、もっと根源的な生命の源を求めて疼く身体を引きずり、棚から抑制剤を取り出した。

「日高? 具合でも悪いのか?」

 タイミング悪く、早見が扉をノックした。さっと目覚まし時計に目を走らせると、普段ならばとっくに、朝食の準備が整っている時間だった。空っぽの食卓を見て、日高を心配して二階に上がってきたのだろう。

「ま、待って。大丈夫、大丈夫だから!」

 日高は急いでシートから取り出した錠剤を口の中に放り込み、丸呑みする。水なしで慌てていたものだから、喉の奥につかえて、苦しみえずいてしまった。

「日高!?」

 大丈夫だという言葉を信じ、扉の向こうで様子見しようとしていた早見が、日高の異変を察して、許可なくドアを開けた。

 待って、まだ効いてない!

 日高はゴホゴホと咳き込みながら、片手で「それ以上近づくな」という意思表示をする。

 オメガに周期的に訪れる、発情期だ。普段は三日前になると教えてくれるアプリで管理して、弱い抑制剤を服用し始めるのだが、どちらも手元にはない。あるのは友威がくれた、緊急時に服用する効果の強いものだけ。

 第二性のない世界だから、発情周期なんてすっかり忘れていた。

 アルファもオメガもない世界なのに、どうして自分の身体は子を宿せる性のままなのだろう。

 日高の目に涙が浮かぶ。結局オメガという性から逃れられない自分に腹が立つ。

「大丈夫だ。そう、落ち着いて……」

 早見は、日高の拒絶を一切聞き入れずに近づいて、背中を優しく擦ってくれた。触れていても、彼の様子におかしなところはまったくないことに、少し安心する。

「ありがとう、ございます」

 落ち着いた日高のもとに、早見は急いで水を持ってきた。開栓されていないペットボトルの蓋を開けようとしたが、手に力が入らず、カリカリと爪で引っ掻くだけになってしまう。

 見かねた早見が開けてくれたボトルから、勢いよく水を飲む。汗で抜けた水分を補い、ホッと一息つく。

 ずっと見守ってくれていた早見が、鼻をひくひくさせながら、辺りを見回していることに、そのとき気づいた。

22話

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